記憶 ページ3
ー小芭内サイドー
此処は何処だ…。
俺は上弦の壱に暗い建物の中に入らされた。
ていうか、いつのまにか入っていた。
黒「奸邪…
早速だが連れてきた…。」
上弦の壱の見る先には鬼の少女がいた。
奸邪…。
それが鬼に呼ばれているお前の名なのか?
全く相応しくない。
『黒死牟様。
その者はもしかして…。』
黒「嗚呼…。
お前が…鬼にした柱だ…。
少々、待ち切れなく…なってな。」
上弦の壱がそう言うと
そっぽを向いていた少女が此方を向いた。
俺は今だと思い、彼女の腕を掴んだ。
逃げるんだ、二人で。
今は鬼狩りなんかよりお前の方が。
『何をする。
馴れ馴れしくしないで欲しい。』
Aは俺の腕を斬った。
勿論、Aを力強く握っていた方を。
俺は哀しくなった。
それと同時に取り戻したいと強く感じた。
だからつい抱き締めてしまった。
Aの体は心が凍るほどに冷たかった。
でも同時にその奥の微かな暖かさを感じた。
久しぶりだな、そう心の中で呟いた。
黒「辞めろ…。
奸邪は…先程…嫌がっていた…。
そう教えている内が花だ。 」
流石に辞めた方が良いと思い彼女を離そうとした。
『黒死牟様、大丈夫です。
恥ずかしながら少しこのままが良い…。』
そう言ってAは俺のことを抱きしめ返した。
ほんの一瞬、彼女の長い前髪から瞳が見えた。
藤納戸色のいつもと変わらぬ瞳が此方を見ていた。
暫くの時が経った。
黒「そろそろ…
鍛錬を始めるか…奸邪。」
Aは俺を離し、上弦の壱の所へ行った。
鍛錬?
それは俺がAとやることだ。
俺は心の声を出すのを我慢して
鏑丸を見つめた。
確かにあの瞳はAそのものだった。
俺は再び彼女の後ろ姿に目を移した。
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作者名:胡蝶菫 | 作成日時:2021年4月16日 4時