実弐拾陸 ページ26
Aは重たい身体を引き摺る様にし乍ら、鯉伴の眠る部屋へ向かった。其れはもう“歩いて居る”とは云えなかった。脚は使って居なかったし、腕で匍匐前進をして進んで居たのだから。
やっとの思いで辿り着き、鯉伴に手を伸ばす。身体は正直に限界だと叫んで居るが、Aは自分に嘘を吐いた。未だ大丈夫。生きて居られるから。
そして今日も又、妖の力を己に移し替えようとする其の手を＿＿＿＿＿何時の間にか起きて居た鯉伴が掴んだ。
「やっと、捕まえた」
「……御、父様……未だ、時間、はあ、る。さあ、眠、て頂戴…………」
「んな途切れ途切れの言葉なんか聞こえないな。…………辛いんだろ」
ひゅうひゅうと息をするAは、うんともすんとも、頷きさえしなかった。唯虚ろな目で鯉伴を見つめて居るだけだ。Aは認めたくないのだ。自分に、父を救う力は無いのだと。
「なァ、A……御前は俺を助けようとして呉れたんだろう」
「……御父、様…………」
「嬉しいよ。でも、御父さんとしては哀しいんだ」
「大、丈夫……から」
「御前に心配掛けて、一人で抱え込ませて。済まない」
「……眠、て」
「辛いだろ。判るよ、俺も前迄そうだったんだから」
「……御願い、よ……も、家族……失、たく、な…………」
「娘がそんな思いをして居るのを黙って見てられないんだ。俺も引き受ける。……厭かい？」
鯉伴は困った様に微笑んだ。Aが其の顔に弱いと云う事を知って居るくせに、狡いだろう。Aは泣き乍ら拒否をした。
こんなにも弱って仕舞って、若菜にも、リクオにも、雪女にも、毛娼妓にも、首無にも、青田坊にも、黒田坊にも、納豆小僧にも、狒々にも、河童にも、牛鬼にも暫く会って居ない。ぬらりひょんは偶に顔を出しては、黙って座って居るだけだ。
Aは、もう壊れようとして居たのだ。
「厭……嫌よ。絶対に嫌…………」
「乙女も黙って消えて仕舞った。もう失いたくないのは俺も同じだよ」
「厭。赦さ、ない……」
Aは首を振り続けた。綺麗だった黒く長い髪はぼさぼさで、頬もこけ、あんなに輝いて居た瞳は暗く沈んで居た。まるで妖怪の様＿＿＿＿＿＿＿勿論妖怪なのだが。
其の姿は御世辞にも綺麗とは云えなかった。顔立ちは整って居るものの、健康的でなく、死んだ人の様だ。其れなのに、鯉伴は不思議にも愛しさを覚えた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 151人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リオン - 更新並びに返事が遅くなってしまい申し訳ありません。少しずつですが頑張らせて頂きたいと存じます。 (2019年8月14日 10時) (
レス) id: 49ae8b1adf (このIDを非表示/違反報告)
みな - 続きが早く見たいです！ (2019年7月22日 21時) (レス) id: 14e40db715 (このIDを非表示/違反報告)
リオン - 美闇さん» コメントありがとうございます。遅くなって申し訳ありません。励みになります。頑張ります！ (2019年6月24日 16時) (レス) id: bdce8ce1ba (このIDを非表示/違反報告)
美闇 - ハマった('ω')これからも頑張って下さい！ (2019年6月19日 22時) (レス) id: 9b2e6e7bfa (このIDを非表示/違反報告)
リオン - 桜さん» コメントありがとうございます。頑張ります！ (2019年6月9日 14時) (レス) id: 0d22f7a27a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：リオン | 作成日時：2019年1月11日 22時
