実弐拾壱 ページ21
ひたひた、廊下を歩く。静かな長い廊下を、静かに、急ぎ足で歩いた。持って居る湯が入った桶を何度か落としそうになるが、堪えた。
或る部屋の前で止まると、唇を噛む。襖に手を掛けようとして戻すと云う行動を幾度か繰り返すと、唇の皮が切れて口の中に血の味がいっぱいに広がったので、諦めてすすすと静かに襖を開いた。
這入れば、其処は通夜の様な雰囲気だった。沢山の者共が、何時もは五月蝿い者共が、誰一人として口を開かず中心に寝ている男を眺めている。涙を流す者も居た。
「……あ、雪女……」
唯一人、毛娼妓だけが這入って来た雪女に気づき、掠れた声を発する。やつれた顔で桶を受け取った。
「如何、鯉伴様の容体は……」
「……ずっと眠ってらっしゃるわ。幸い傷は塞がったし、後遺症については起きてからじゃないと判らない処も有るのだけど……A様に感謝ね」
「そう……お母様に訊いてみたら、刀は妖刀だと思うって云ってたわ。そりゃそうよね、治癒能力を持つ鯉伴様がずっと、四日も眠られるだなんて…………」
ぽそぽそと小さな声で会話をする。広い部屋はあまりにも静かで、会話は殆ど筒抜けだった。其の言葉で更に泣き出す者や、鯉伴を苦しそうな顔で見つめる者が増えた。唯、鯉伴は何時も通り涼しげな顔で眠って居る。
鯉伴と指を絡め、目を閉じて寄り掛かる様に座って居るのは若菜だ。最愛の夫が昏睡状態だと云うのに、此方も涼しげな顔で、眠って居る様に見える。ただし、目許は赤く染まって居り、誰も居ない処で泣いて居るのが丸解りだ。
若菜が薄ら笑んで声を発す。
「あら、雪女ちゃん……帰って来たのね」
「若菜様……。リクオ様は？」
「小妖怪たちに見て貰ってるわ。雪女ちゃんも、後で遊んであげてね……」
若菜はそう云うと、また鯉伴に寄り添って目を瞑った。弱々しい其の様子が鯉伴の様子其の物の様に思えて、雪女はそっと目を逸らす。
其の侭小さな声で、A様は、と毛娼妓に尋ねた。
「病院に入院中。あんまり怪我が酷かった物だから、若菜様が人間の医者を頼ったのよ。手術もしたけれど、昏睡状態で親でも面会謝絶ですって……」
毛娼妓もまた小声で応えると、それきり黙って仕舞った。状況は思ったよりも酷い。肝心のぬらりひょんはふらりと何処かに行って仕舞ったし、奴良組は最も不安定な状態だと云えるだろう。
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リオン - 更新並びに返事が遅くなってしまい申し訳ありません。少しずつですが頑張らせて頂きたいと存じます。 (2019年8月14日 10時) (
レス) id: 49ae8b1adf (このIDを非表示/違反報告)
みな - 続きが早く見たいです！ (2019年7月22日 21時) (レス) id: 14e40db715 (このIDを非表示/違反報告)
リオン - 美闇さん» コメントありがとうございます。遅くなって申し訳ありません。励みになります。頑張ります！ (2019年6月24日 16時) (レス) id: bdce8ce1ba (このIDを非表示/違反報告)
美闇 - ハマった('ω')これからも頑張って下さい！ (2019年6月19日 22時) (レス) id: 9b2e6e7bfa (このIDを非表示/違反報告)
リオン - 桜さん» コメントありがとうございます。頑張ります！ (2019年6月9日 14時) (レス) id: 0d22f7a27a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：リオン | 作成日時：2019年1月11日 22時
