実一つ ページ1
奴良組本家門前に佇む少女の影。
通る者は皆おやと見てゆくが、声を掛ける者は一人も居ない。
少女は一人黙って、棒の様に動かない。
妖か人の仔か、どちらかたんと見当もつかぬ。
妖の匂いも人の仔の匂いも、慣れている者ならば判るのだが、慣れている奴良組本家の妖達でさえも嗅ぎ分けられなかった。だから声を掛ける者が一人も居ないのである。
しかし幾ら待っても待ち人が来る気配さえも無い。来る処か、本当に此処に待ち人は居るのかと疑いたくなる程に
そろそろ中に忍び込もうか＿＿＿＿少女がそんな不躾な事を考え始めた時、待ち人は現れた。
「鯉伴様のお帰りぞ！」
「皆出迎えよ！鯉伴様のお帰りぞ！」
出入りだったのだろうか、赤に染まった着物は崩れ、後を附いてゆく妖共には怪我をしている者も居た。
此方にちらりと目を向けただけで、あとは興味を示さぬ少女を見付けた鯉伴は、面白い物を見付けたと列から外れ、一人佇む少女を呼んだ。
「お嬢ちゃん、此処で何をして居るんだい。家に何か用か？」
「……人を待って居るの。中々見つからなくて、中に這入らせて貰おうか考えていた処よ」
「そうかい。そんじゃ上がりな、その待ち人が現れるかは保証しないがね」
「＿＿＿＿鯉伴様！中へお這入り下さい。総大将がお待ちです」
「おーおー、そんじゃ行くか。嬢ちゃん、如何する。一緒に来るか」
「お気遣いどうも有難う。でも大丈夫だわ、たった今見付けたから」
少女は鯉伴の優しさに微笑み、丁寧に礼を述べた。
しかし首を振り鯉伴の提案を断ったのにも拘わらず、鯉伴のその腕を掴み、己の方へと引いた。そして耳朶へと口を近づけ、囁く。
「貴方が鯉伴様なのですね。お逢いしとう御座いました」
鯉伴は呆け、少女の顔を見る。少女が自分を知らずに待って居たのなら、少女はもしかしたら敵の潜伏やも知れぬ。
だが少女は其れを避け、飽く迄も鯉伴に確りと顔を確認させる隙を作らない。
「アンタ、敵の間諜か？」
「否。貴方様に危害を加える心算も、奴良組に不利益に為る事もする心算も御座いませぬ。鯉伴様に頼みがあり参上仕りました」
「頼み？言っとくが俺ぁ私情じゃ動かねえぜ」
「母に会って頂きたいのです。本当に母を愛して居たのなら」
少女は困惑する鯉伴を他所に「御願い致します」と懇願し続けた。
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リオン - 更新並びに返事が遅くなってしまい申し訳ありません。少しずつですが頑張らせて頂きたいと存じます。 (2019年8月14日 10時) (
レス) id: 49ae8b1adf (このIDを非表示/違反報告)
みな - 続きが早く見たいです！ (2019年7月22日 21時) (レス) id: 14e40db715 (このIDを非表示/違反報告)
リオン - 美闇さん» コメントありがとうございます。遅くなって申し訳ありません。励みになります。頑張ります！ (2019年6月24日 16時) (レス) id: bdce8ce1ba (このIDを非表示/違反報告)
美闇 - ハマった('ω')これからも頑張って下さい！ (2019年6月19日 22時) (レス) id: 9b2e6e7bfa (このIDを非表示/違反報告)
リオン - 桜さん» コメントありがとうございます。頑張ります！ (2019年6月9日 14時) (レス) id: 0d22f7a27a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：リオン | 作成日時：2019年1月11日 22時
