41：決して侮るな ページ43
*
茶菓子にばかり手を付け､半分ほど残っていた紅茶を今になって再び啜る｡
少し渋味を含んだダージリンは未だに温かかった｡
Os｢──前菜はどうやった？｣
一段と低く重く刺さるその声に､思わず声の主の方を見やる｡
普段は閉じている彼の瞳は糸のように細く､ナイフのように鋭く開かれていた｡俺を見据える天鵞絨の瞳は､総てを見透かすように捉えて離さない｡
『最高に美味しかった』
Os｢いやそれは当たり前や｣
珍しくオスマンのキレキレなツッコミが入ったが､今はそれどころではない｡斯く言う俺も､話題を逸らすためにボケたのだが｡
Os｢……茶席でこんな事言いとうないんやけどな､この際やから言わせてもらうわ｣
少しの沈黙の後､彼は顔を顰めて吐き出すように言った｡
Os｢いつまでも過去に囚われとんとちゃうぞ｣
俺はその一言にぐっと奥歯を噛み締めるしかなかった｡
この言い振りからして､彼は何時かしらで俺の事を知ったのだろう｡──彼の異様なまでの観察眼だ､偶然か必然か､どちらにせよこの日はそう遠くなかっただろう｡
またひとり､私が知られてしまった｡
何も映し出さない紅茶が溢れんばかりに揺れ動く｡
『──失望したか？』
彼はその言葉に目を見開き､わなわなと唇を震わせ何かを言おうとしていた｡だが､どちらも直ぐに閉じ俺の問いに言葉を紡いだ｡
Os｢──あぁ､失望したわ｣
『だろうな』
これでも自覚はある｡
嘘偽りで塗り固められたこの存在に騙され続けて来たんだ｡皆､心の奥底では憤慨しているのだろう｡
カップの底に沈殿した､遣る瀬無いただの成分のように､負の感情だけが心に溜まっていった｡
Os｢違う｡アンタがいつまで経っても俺らに頼らんことにや｣
『？何言ってｯ──』
Os｢あ"ー！もうｯはよ気付けや！俺らが積み上げてきた年月は､その繋がりは､そんなに脆いんか！？｣
『そ､れは……』
あの彼が取り乱すほど熱を込めて語るが､俺はその言葉に自信が持てず､ぐっと口を噤む｡
Os｢悪いけどな､俺らはそんなに脆ないねん｡アンタのその事実が有ろうが無かろうがそんなん関係ないわ｣
彼は勢い良く立ち上がり､早足で扉の前に立った｡
Os｢……俺らは､あの時から何も変わっとらん｡アイツとアンタについて行った､あの日から､何も｣
絞り出したような震えた声｡彼はぼそりと囁き､扉を開けて出て行ってしまった｡
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作者名：Youtopia | 作成日時：2020年11月8日 17時
