31：君のためのやる気スイッチ ページ33
*
医務室にてしんぺい神に手当てをされてから拳骨を受け､階段で偶然すれ違ったトントンから拳骨を受け､俺は半べそになりながら自室へ帰ろうとした｡
『……うわ』
どこから来たのか､微かに煙が薫る｡──煙草の匂いだ｡
だがその発生元は案外早く判明した｡
医務室とは異なるトタン風で横開きの扉｡部屋の前に立てば､先程より濃く薫る毒煙｡
間違いなくこの場所だと､勢い良く扉を開けた｡
ｶﾞﾗﾗﾗﾗｯ ﾊﾞｧﾝ
？｢うぉｧｯ！？びっくりしたァ！クリアそんな乱暴に扉開けんといて！？｣
ここの幹部は喫煙者が多いが､彼は喫煙者の中でも�爛悒咫璽好癲璽�ー�瓩半里気譴襪曚�､ニコチン摂取量が多い｡
『──鬱』
Ut｢はぁーい､鬱だよー｣
壁に靠れていた鬱はヘラっと笑いながら燻る煙草を口にする｡ふーぅ､と吐かれた煙は風に流れて溶けていった｡
Ut｢それにしても､ここがよう分かったなぁ｣
『匂いを追って来たんだ｡廊下まで煙たいとなると厭でも分かる』
彼は興味なさげにふーん､と返し､また煙草を咥えた｡
『そうだ､書類の方は順調か？』
彼といえば書類怠慢の常連者｡近況把握も兼ね質問すると､彼は分かり易く顔を顰めた｡
Ut｢……手ェ付けとらん｡俺が全う出来ると思うとる？｣
『勿論思っているさ｡ただスイッチが入るのが遅いだけでな』
彼は短くなった煙草を柄入れに投げ捨て､自嘲気味に嗤った｡
Ut｢そんなこと世辞でも口に出す人､アンタしかおらんで｣
前々から気にしてはいたが､彼は自身を卑下し過ぎている面がある｡
彼は人の表情､声色､様子等で相手の心情を察知出来る､素敵な感性を持っている｡だがそれ故に人一倍傷付きやすかった｡他人からの視線や評価なら尚更だ｡
だから傷付かない為に自らを卑下した｡自ら傷付け､誤魔化し続けて｡
……彼はそんな日々を抱えて生きてきた｡
『俺がお前相手にその世辞を駄弁ると思うか？』
Ut｢……思えんな｣
彼が目をすっと細めて空を見やる｡
黄昏の空､太陽が光を窄めながら沈んでいく｡もう直にコチラの世界は闇に包まれる｡
『……鬱の書類はいつも丁寧に纏まっていて､コチラとしてはありがたいんだがなぁ』
Ut｢──え｣
そろそろ自室に戻る､と一言残し敢えてここから立ち去った｡
彼はこの手に弱いのを俺は知っている｡
*
「……仕事も案外悪かないなぁ」
俺はもう一本だけ煙草に火を灯した｡
*
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作者名：Youtopia | 作成日時：2020年11月8日 17時
