29：戦闘中に私情は挟むな ページ31
*
ﾄﾞｶﾞﾝｯ
世界がゆっくりと動いていた──そんな時間はあっという間に消え去り､目前が黒一色に染まる｡所々､光がバチバチと輝いていた｡
同時に顔面と頭部に激痛が走る｡後頭部から諸に蹴られたのか｡
ﾊﾟﾀｯ……ﾎﾞﾀ､ｯ
顔を上げた直後､床に赤が零れ落ちた｡
『衂か』
俯せの状態から腕､膝､足と順を追って立ち上がる｡鼻から滴り落ちる雫を舐めれば､錆びた鉄の味が口に広がった｡
俺の頭を蹴り飛ばした張本人は後方へ跳んで先程まで居た場所まで戻った｡
Zm｢……そろそろ勝たせてもらうで｣
首をボギボギと鳴らし構えるゾムは､打って変わって本気で目の前に佇む
『臨むところだ､全力でいくぞ！』
床を蹴ろうとした刹那､彼の瞳が鮮血の様に紅く染まった気がした｡
血の流れが速くなった──彼はこの稽古が余程愉しいらしい｡
俺は彼と同時に床を蹴っていた｡
──
アレからどれほどの時間が経ったのか｡互いが互いに無駄の無い動きを繰り出していた｡丁々発止と刃がぶつかり合い､一進一退としているこの状況は一向に埒が明かなかった｡
そんな中でも彼は避け難い膝と上半身を頻繁に狙っている辺り､本気で勝利を掴み取ろうとしている事が窺える｡
身体を掠めては反撃し､避けては拳をぶつけ合った｡転ばせようとする足払いも躱した｡
しかし､此処暫く身体を動かしていなかったツケが回ってきたのか､判断と次にするべき行動は判っている筈なのに､身体が思考に追い付かなくなっていた｡
一瞬だけ視線を迷わせた隙に彼は腰を落とし､脚を伸ばし始める｡コレは足払いを繰り出す為の構え方だ｡
そう判断は出来たが肝心の身体は未だに動かず｡
『ぅわｯ』
ｽﾞｻｯ
見事に足が縺れ､彼が仰向けに倒れた俺に跨り､静かにそのナイフの切先を喉元にあてがった｡
Zm｢──
彼も相当の体力を消耗したのか､息を絶え絶えとさせ肩が上下に大きく動いている｡
『はぁ……降参だ降参』
俺は既に限界を迎えていたため､ナイフを置いて両手をひらひらと挙げて見せた｡
「只今の勝負ｯ､クリア様の降伏によりゾム様の勝利で御座います！！」
審判の結果を聞き､周りから一斉に感嘆の息と手を叩く音が溢れる｡
勝負には負けてしまったが､清々しい程に心が澄み渡っていた｡
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 173人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Youtopia | 作成日時：2020年11月8日 17時
