20：思うが故に､想うが故に｡ ページ22
*
Pe｢Aちゃんはこの出来事のこと覚えとった？｣
『……いや､全く』
しんぺい神から聞いた過去は､全く身に覚えが無かった｡
──先程まで一定間隔で音を立てていた液体はいつの間にか間髪を入れずに鳴り続けている｡
Pe｢うーん､やっぱりや｡君は､嫌われることや裏切られることを極端に嫌っているんやと思う｣
『嫌われること､裏切られること……』
Pe｢そうや｡君は誰よりも嫌われることの辛さ､裏切られることの苦しさを理解しとる｡
だからこそ､それら総てを心身に戒めたんや｣
成程と一瞬だけ思った｡が､それなら尚更何故この出来事を忘れていたのか｡
Pe｢んふふ､だったら何故忘れていたのか､って顔しとんなぁ｡それはな､君自身の防衛本能が懸命に働いとるからや｣
『防衛本能？こんな些細な事にも働くのか？』
Pe｢些細な事て……あんなぁAちゃん､防衛本能が無かったら君は今､此の世に居らんかもしれんねんで｣
彼は頭を掻いて､荒々しく､されど慎重に言葉を紡いだ｡
Pe｢ええか､善い意味でも悪い意味でも､防衛本能で自身の傷心を忘れさせとる｡
……その一番の証拠として､あの日──君が最後に聞いたご両親の言葉を､君は思い出すことが出来ない｡解った？｣
『うーん……解った』
彼は私が納得したのを確認して､激しく泡吹くフラスコを手に取った｡けたたましく音を立てていたのは､どうやらコレだったらしい｡
しかし､さっきまでの論題と元の論題とでは全く辻褄が合っていない事に気が付いた｡一体どう関連しているのか､彼に尋ねる｡
『だが神､今のその憶測と本題の謎とどう関連しているんだ？』
Pe｢……｣
嫌な沈黙｡
まさかとは思うが──
Pe｢……てへっ｣
……彼の頭に､星がこつんと当たった気がする｡
御茶目にウィンクを決めた彼に､私は頭を抱える他なかった｡
*
おちゃらけて､らしくもないウィンクを彼女に御見舞いする｡
そんな俺を見て彼女は盛大に溜め息を吐いた｡
本当は包み隠さず話した方が良いのだろうか｡その方が彼女の為になるのではないか｡
だがもし……
もし､話してしまったら｡
これを話してしまったら｡
今度こそ本当に君は､消えてしまうのではないか｡
そんな不安に苛まれ､診てきた人々の中で唯一､君だけをずっと救うことが出来ない俺は──
医者以前に仲間として､君の親友として失格だ｡
*
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作者名：Youtopia | 作成日時：2020年11月8日 17時
