12：中庭に咲いた悲哀の薔薇 ページ14
*
『……また､か』
俺はすっと目が覚めた｡
二度も忘れ去った過去を掘り返されて､こちらとしては堪ったものじゃない｡だが､首を締め付けられるような感覚は綺麗さっぱりと消えていた｡
夜空を眺める｡漆黒のキャンバスに金や銀の雫を垂らしたようだった｡
『完全に目が覚めたな……』
以前と違って深夜帯｡目覚めるには少々早かった｡
『外の空気でも吸おう』
俺はコートを羽織って部屋を出た｡
──
外──といっても完全に外へ出るつもりはなく､階段を下り城の中央部に造られた中庭へ赴いた｡
辺りの花壇から､丹念に育てられた紅色の薔薇の香りが漂っている｡
？｢あれ､クリアやん｣
すぐ後ろから聞き覚えのある声がして振り返る｡
顔色はすっかり良くなり､瞳は生気を吹き戻していた｡
『あぁ､トントン……よく眠れたか？』
Tn｢おん､バッチリや｡クリアのお陰やで､ホンマに｣
良かった､俺の取った行動は間違っていなかった｡
心の中で俺はほっとした｡何よりもしっかりと回復していた事に一番安心し､胸を撫で下ろした｡
たわい無い話になり､近くのベンチに座って仲良く薔薇を観賞し始める｡
Tn｢……そういえばこうやって二人きりで話すの､久々やな｣
『言われてみれば確かに｡今朝のアレを除いて話すらしていなかったな』
俺も彼も仕事は基本デスクワークで､顔を合わせる機会すら無かったのだろうな､とお互い苦笑いした｡
Tn｢なぁ､間違えとったら悪いんやけど……外の空気を吸う為にここに来たん？｣
彼は顔をこちらに向けて尋ねている｡
アイツの深緋色よりも濃い猩々緋の双眸が､真っ直ぐに俺を捉え､反転した俺が映っていた｡
『大当たりだ』
直ぐに言葉を返し､視線を薔薇へと戻す｡
彼の瞳は産まれもった時から赤系統色だったのだろう｡穢れなく澄み渡っていて､見つめていれば吸い込まれそうだ｡
──俺とは違い､凄く綺麗で｡
『……美しいな』
Tn｢……せやな｣
俺と彼は星々が煌めく中庭で薔薇を眺め続けた｡
*
『……美しいな』
薔薇へ視線を向けて話す彼女は､一体何を思い､その言葉を紡いだのか｡
先程､目を合わせた時に俺は解った｡
俺を見つめる彼女の瞳の奥が確かに揺れていた｡それに加えて僅かに哀しい顔をして｡
当の本人は気付いていないのだろう｡
「……せやな」
今の俺にはこの三文字しか答えられなかった｡
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 173人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Youtopia | 作成日時：2020年11月8日 17時
