25 ページ25
「……あ」
ウィンターホリデーも明けて、授業が再開してしばらく経った頃だった。しんしんと雪が降っていて、生徒のほとんどは寮の自室か、あるいは談話室で暖を取っているばかりだった。
ロレッタはそんな、閑散とした廊下を歩いていた。特に理由はなく、無理に理由をつけるとするなら、ウィンターホリデーに甘いものを食べすぎて体重が気になっていたとか、そんなものだろう。本当にふとした気持ちで、ただ廊下を歩いていた。窓から夕日が差し込んできている。廊下の奥はやけに暗く見えている。
そして、その闇の奥に、ガリオンがいた。
ガリオンは黒い髪……元の色の髪だった。腰元辺りまで延びた髪。力なく背を丸めていて、両手がぶらぶらと垂れている。
「ガリオン、ちゃん？」
ロレッタは呟いた。それは呼びかけではなく、本当に独り言だった。それがガリオンだと、ロレッタは一瞬分からなかった。あまりに変わっていて、分からなかった。
「……ロレッタ」
「ああ、えっと。久し振りだね、ガリオンちゃん？」
ガリオンが声を発する。声は少し暗いが、ほとんど変わっていない。しかし、ガリオンはロレッタを呼び捨てにしていなかったはずだ。
ガリオンは廊下の奥から、ふらふらと左右に揺れながらこちらに寄ってくる。その歩き方もやけにかくついており、人形じみて見えた。耳が肩にくっつくくらいに首を傾げ、半開きになった口から言葉を紡いでいた。
「ええ、久し振り……ねえ、ロレッタ、ごめんなさいね？」
感情を伺わせない、無表情な顔。ロレッタは気が付いた。ガリオンの目が黒い。目の怪我が治ったのだろうか。
その暗い目が、こちらを捉えている。人の持てる色とは思えないくらいの黒さで、現実感がないほどであった。意識が吸い込まれる、どころか引きずり込まれそうな、虚ろな瞳であった。
「どうして……謝るの？」
「少しあなたに酷い事をしたかもしれないから。でも、安心して。大丈夫だから」
ガリオンはそれだけ言って、微笑んだ。その笑顔は異様なまでに歪んでいて……そこでロレッタは、受け入れ難かったそれをようやく理解した。しかし、だからといって何ができるのだろうか。
目の前の彼女は、自分の知らない誰かだと。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
