9話 ページ10
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紅茶の柔らかな甘みと香りのおかげで、私はいつもよりだいぶリラックスして彼と向き合えているような気がする。まるで少し歳上の友人と話しているような、そんな感覚さえ覚えるほどに自然な形で彼と関わっている。
ふと、また天使が通りすぎた。
彼と私は同じことを思ったようで、目を見合せて笑いあった。私と彼の間を通り過ぎた天使様はいったいどんな顔をして、どんな羽根を持っているんだろうか。
「国って……、俺ってね、そんなに大層なものじゃないんだよ。神様でもないし、少し長く生きた人間みたいなものなんだ。だからそんなに俺にかしこまらないで欲しいな」
「……はい、すみません」
「でも、今どきそこまで俺を思ってくれる人っていないから、結構嬉しかったりするんだぁ!」
へへ、と照れたように笑う彼はまるで少年のようで。ティーカップの持ち手に指を通さず持って、優雅な姿勢を崩さない彼とはまるで正反対のように感じる。
(どちらも彼なんだろうな)
国特有の長い時間を生きたが故に持つ余裕も、彼特有の無邪気で穏やかな性格も、どちらも併せ持ったのが彼なのだろう。
「あの、ウェールズさん」
「ん、なぁに?」
「ウェールズさんは何が好きなんですか?」
彼は驚いたように少し目を見開いたけれど、すぐに口角を上げていつも通りの穏やかな表情に戻った。私は彼を知りたいと思った。彼自身のことを、少しだけ。彼が大袈裟な考えるふりの後に出した答えは色々あった。
お菓子に紅茶、お酒、フットボール、読書に園芸。長く生きている分色々な物事に触れて、たくさんのことに興味を持って、それから色んなものを好きになってきたのだろう。好きなことについて話す彼は、気恥しさと嬉しさと楽しさとが混ざったような表情をしていた。
楽しそうに話す彼の言葉を拾う時、私はまるで上司ではなく一人の友人の話を聞いているかのような気分になっていた。彼の話が途切れて、再び天使が通り過ぎるのを待ったあと彼が言う。
「俺ばっかり話しちゃったね」
「私は楽しかったです、あなたのことを知れて」
「なになに、俺口説かれてるの?」
彼の言葉に私はハッと口を押さえた。確かに私の言葉はまるで彼を口説いているかのようで、気づいてしまった途端に恥ずかしさが私に襲いかかった。彼は笑って『冗談だよ』と言った。
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