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8話 ページ9

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強い風に吹かれながら歩くこと五分ほど、彼の言っていたお気に入りの紅茶屋さんについた。ふんわりと茶葉の匂いが漂う店内には、数人のお客さんとオーナーがいた。元々強い風に、オフィス街のビル風でさらにパワーアップした風に揉まれた私の髪は乱れに乱れて目も当てられない。

暖かい空気に紅茶本来の淡いながらも場が華やぐ香りが充満した店内で、私は今日たまたま香水をつけていないことに感謝した。手で髪を撫で解きながら、上品なテーブルクロスが敷かれたテーブル席に向かう彼の背中を追う。彼はさりげなく椅子を引いて奥に席へと私を誘導した。

「俺はアールグレイにするけど、Aちゃんは?」
「アッサムでお願いします」
「スコーンとかは食べる?」
「レモンケーキがいいです」
「いいねぇ」

注文が決まればオーナーに視線を送って、席に来て貰って注文を済ませる。話題がなくなってしまって、一瞬の気まずい沈黙。彼の方が私よりもずっと立場は上なのに、私の方が上座にいるというのがなんとなく落ち着かない。しかし、私が下座に座ってしまうとまるで彼がマナーのなっていない人のように見えてしまう。

なにか話さなくては、と考えているうちに彼と目が合った。気まずさと照れと、なんだか浮き足立つ気持ちが同居する私に、彼は上機嫌に笑いながら言う。

「ふふ、天使が通ったね」
「天使、ですか?」
「うん、天使。ずっと前にフランスが教えてくれたんだ、会話が途切れたら天使が通った合図だって」
「良いですね、その捉え方」
「うんうん、俺もそう思う」

嬉しそうに微笑む彼の無邪気さといったら、まるでサンタクロース信じている子供のようで。そんな彼を見ていると、自然と眉尻は下がって口角が上がるような気がした。注文してから5分か10分か経った頃に、鼻下のちょび髭と蝶ネクタイが特徴的なマスターが趣味のいいティーセットを運んできた。

最初はアールグレイの繊細な香り、次にアッサムのはっきりとした香りが暖かい湯気にのって鼻腔をくすぐる。レモンの形をしたケーキは、酸っぱそうで甘そうで、美味しい紅茶にはきっとよく合うだろう。

最初の一口は砂糖もミルクも入れず、そのまま飲み込む。正真正銘ストレートのはずなのに、飴玉を舐めているかのような甘さがあり、優しいのに形がハッキリしたアッサムの香りが鼻を抜け出ていく。砂糖など入れない方が美味しいのではないか、そう思わせるほどに美味しい紅茶だ。

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作者名:おず | 作者ホームページ:無い。  
作成日時:2024年3月2日 9時

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