7話 ページ8
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祖父は清く厳格なクリスチャンだった。毎週日曜日にはミサへ出席し、私も幼い頃は祖父に連れられて教会に足を運んでいた。大人になった今では自然と教会から足は遠のいたように感じる。
(決して神を信じていない訳では無いけれど)
毎週日曜日の決まった時間に、まるで義務のように、まるで与えられた仕事のように祈るのは本意では無いように感じる。
そんな投げやりな祈りを捧げられる神様も迷惑だろう、と思いつつも今日のミサには参加している矛盾。4列目の端で、レースを頭に掛けて手を組み祈りを捧げる。聖体を飲み込み、神父に祝福を頂き、十字を切る。久々の儀式も案外覚えているものだ。
「Aちゃん?」
「……ウェールズ様っ! すみません、ウェールズさん!」
ミサが終わって談笑を始める老人たちに紛れて、私はベールを畳んでいると声をかけられる。突然の事で思わず辞めるように言われた敬称をつけてしまった上に、無駄に大きな声が出てしまう。彼は少し苦笑いをする。オフィスで見る彼よりもずっとカジュアルな服装だけれど、革手袋とコートはいつもと同じ。
「いつもミサは参加してないでしょ?」
「はい、今日は祖父の代わりに出席しました」
「……そっか」
何かを察したように彼は口を噤んだ。入院した祖父の代わり、言わずともなんとなくわかってしまったのだろう。地元の教会に行けば祖父の知り合いから根掘り葉掘り質問攻めに合うことは想像にかたくない。それが嫌でオフィスの近くの教会に来たのだ。
彼は毎週ミサに出席しているのだろう。私にとって神様と同じ立ち位置にいる彼が、神様に祈るなんてなんだか面白いような気がする。
「またダフィッドに会いたいな」
「是非! ……でも、祖父があなたに会いに伺うことはできないと思います」
「俺が会いに行くよ、ダフィッドには君が想像するよりずうっとお世話になったんだぁ」
懐かしむように彼は目を細めた。彼の言葉を祖父が聞いたら大層喜ぶだろう。私の憧れた大好きな祖父は、誰よりも母国を愛しているのだから。
「時間があるならお茶でも飲みに行かない?」
「是非!」
「うん、近くに俺のお気に入りの紅茶屋さんがあるんだ」
ステンドグラスから刺す色とりどりの光を踏みながら、教会の外に出ると強い風が私たちを叩いた。ボサボサになってしまった髪を軽く整えるけれど、すぐに風が吹いてまた乱れてしまう。
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