31話 ページ32
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お酒を飲み始めたシェアハウスはどんちゃん騒ぎだった。フットボールの試合を垂れ流しにしたテレビ、彼らは選手の一挙手一投足に盛り上がる。その熱に当てられて、私はバルコニーに避難した。普段は飲まないお酒も、彼らに比べれば雀の涙だけれど飲んだせいで頬が熱い。
ひんやりした空気が鼻をぬけて、肺への道をはっきり示す。三日月の輝く夜空に白い息を吐いて、今日の出来事を順々に思い出す。お昼頃に彼と落ち合って、素敵なアフタヌーンティーをご馳走してもらって、そして美術館、公園でカフェラテを飲んで。
カタン、とバルコニーのガラス扉が閉まる音がした。振り返るとそこには彼がいた。寒いでしょ、と彼は私に熱いココアを手渡して微笑む。
「ほんと、騒がしいよね」
「……でも、楽しそうです」
受け取ったココアに口をつけると、熱すぎて唇を軽くやけどしてしまった。呆れたようにリビングの様子を眺める彼、だけどその瞳は優しくてどこか楽しそうで。
「ふふ、でもね、普段だったらみんな服まで脱いでもっと大騒ぎしてるんだよ。……あ、俺は脱いでないからね!」
「本当にただのシェアハウスなんですね」
「……うん」
スコットランドに点が入ったらしい。それが一目でわかるほどに白熱するフットボール観戦。彩りのない食卓、妙に種類豊富なアルコール類。急速にぬるくなっていくココア。その甘さは慣れないアルコールで疲れた肝臓に染み渡る。ふと、白いレースのカーテンに人影が映る。
バルコニーのガラス扉が開いて、そこには少し拗ねたような顔をした金髪の男性━━イングランドがいた。彼は先客がいた事に驚いていた。
「……いーくん」
「ここにいたのかよ」
「うん、ねえ、いーくん、ちょっとこっち来て」
「お、おう」
ウェールズさんはイングランドを私の前に立たせる。私とイングランドはお互いに気まずくて、お互いにどこか別の場所を見る他なかった。そんなことも気にせずウェールズさんは言った。
「改めて紹介するね、俺の弟のイングランド」
「大いなる譲歩の上での弟だが」
腕を組んでふてぶてしいその態度はまさに絵に描いたようなイングランド人だ。しかし、2人の瞳の色はよく似ている。
(本当に、兄弟なんだ)
なんだか可笑しくて、私は笑ってしまった。何を笑っているんだと私を見るイングランド。
「あの、いーくんって呼ばれてるんですか?」
私がそう言うとイングランドは言葉にならない抗議をし始めた。
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