26話 ページ27
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ケーキスタンドにはサンドイッチに小さなケーキ、スコーン、マカロンやクッキーが乗せられている。スコーン用のクリームやジャムは別の瓶に容れられている。色鮮やかなのに派手すぎないティーセットには飴色の紅茶がよく映える。期間限定のフレーバーティーがよく香る。
「ふふ、Aちゃん、手震えてる」
「いつもはマグカップだから指先だけでティーカップを支えるのはちょっと大変なんです！」
「俺しか見てないから指通しても良いのに」
あなたの目にできるだけ上品なように映りたい、そんな女心はいくら何千年と生きた彼でも分からないだろう。足を組んで、ティーカップの持ち手を軽く持ち、熱い紅茶を音もたてずに飲み込む優雅さといったら。そんな彼に見合う女性になりたいと思うのは必然だろう。
スコーンを割るとほんのり湯気がたち、ふわっと甘いバターの香り。クリームとジャムを塗って口に含めば、程よい甘さとジャムの酸味がよく合う。紅茶で甘味を引き締めて、華やかな鼻抜けを楽しむ。自然と微笑みが溢れてしまうほどの美味しさだ。
「可愛い」
彼が突然そんなことを言う。甘々しい彼の微笑みから私はふと目を逸らした。恥ずかしくて、褒められた時になんと返せば良いのかも分からなくて。
「ありがとうございます」
捻り出した返答は、まるで面白みがなくてガッカリさせてしまうかもしれない。けれど彼は心底愛おしいと言わんばかりに微笑みを私に向ける。
最初見た時は少なくて足りるかどうか心配していたアフタヌーンティーも、食べ終わってしまえばもういらないと思うほどの量だった。スコーンもケーキもなかなかお腹にたまりやすい。紅茶が残り少なくなったタイミングで彼に御手洗は大丈夫か聞かれ、私は席を立った。
席に戻ると彼は既に紅茶を飲み終わっており、御手洗に立った。カップに残った紅茶を飲み干した頃に彼は戻ってきた。そして身支度を済ませて、そのまま店を出る。
「あの、お会計は？」
「ん？」
聞こえないフリをして彼は少し早足で歩いていく。お店を出て少し歩いた後、彼は歩みを緩めて私を待つ。
「ねえねえ、美術館とか好き？」
少し先に見える大きな公園に併設された美術館。全く興味がないわけでも、すごく興味がある訳でもない美術館。でもあの静かな空間は好きだ。私が頷くと、彼はパッと嬉しそうに笑ってて、行こうかと私の手を引いた。
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