21話 ページ22
*Aside
あれから2ヶ月ほど、彼とは仕事関係のことしか話さなくなってしまった。彼はなにか言おうとしてくれるけれど、私がつい避けてしまう。祖国様に対してずいぶんと失礼なことを言ってしまった自覚はあったし、出過ぎた真似だったこともわかっていた。
そして彼とあまり話さなくなってから、ぼんやりすることが増えたような気がする。それでも仕事だけはしっかりこなす自分がなんだか悲しい。メリハリのない生活の中で、今日もまた朝起きてオフィスに来て仕事をし、暗くなったら帰ってぼんやりとテレビを眺めて寝る。
終業時間を過ぎて、次々と帰っていく同僚たちのあとを追いかけるように私もさっさと帰る準備をしてオフィスを出る。月が厚い雲に覆われている。雨が降りそうなじめっとした空気を見つめ、私は駅に向かって歩いていたその時、突然後ろに引っ張られる。
そして私の目の前を大きなクラクションを鳴らして通り過ぎる物流トラック。どくんどくんと全身に血が巡る感覚、意識が戻ってみると信号は赤。
「良かった……」
振り返って声の主、私の腕を引っ張ったその人を見ると、それはウェールズさんだった。彼は思い詰めたような顔をしていて、私が無事だとわかると息を整えようとしゃがみ込んだ。私もしゃがんで彼と目線を合わせる。久しぶりに見た彼の瞳は宝石のような緑。
「……すみません」
「ほんとだよ! 気をつけて! この……っ、おっちょこちょい!」
怒ったように私を睨む彼、強い言葉を使わないようにしてくれるけれど優しすぎて、怒られているような気がしなかった。それがなんだか可笑しくて、私は笑ってしまった。
「俺は怒ってるんだからね!」
「ふふ、ごめんなさい」
「もう、本当にわかってるの?」
ムッと唇を尖らせる彼だけど、本気で怒ってないことは見て取れる。私がくすくす笑っていると、次第に彼も怒ってるのにとボヤきながら笑い始めてしまった。彼は笑う私をじっと見て言う。
「……うん、笑ってる方がずっといいよ、可愛い」
予想外の言葉に私が呆気に取られてると彼は申し訳なさそうに眉尻を下げて言った。
「なんて、俺が泣かせちゃったのにね。この間はごめんね、俺、Aちゃんのこと全然考えてなかった。Aちゃんは俺の事考えてくれてたのにね」
何千年も生きてるくせに情けないや、彼はそう続けた。
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