19話 ページ20
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あまりの衝撃に、私は勢いよく立ち上がって言う。
「なんでイングランドなんかとシェアハウスなんて！ 何をされるか分からないんですよ！」
「そうだね、でももう決めたことなんだぁ」
彼があんまりに何事もない風に笑うから、私は悔しくて悲しくて。言いたいことと溢れる涙を抑えるためにグッと下唇を噛んで、強く強く拳を握った。彼も立ち上がって心配そうに、力の入った手と噛まれている唇を解放しようと手を添えた。
「俺は大丈夫だから」
「大丈夫じゃない！！」
君がそんな顔をしないで、彼のその優しい言葉を私は大声で遮ってしまった。その拍子にこぼれる涙。彼は驚いたように私の右手を優しく握ったまま。
「大丈夫じゃないです、どうして、どうしてあなたが犠牲になろうとするんですか？ あなたの代わりはいないのに、どうしてあなたが捕虜のようにイングランドの元に行かなければならないんですか？ あなたには、あなたが好きなように生きる権利があるはずなのに、あなたの好きなように生きて欲しいのに、どうして国というだけでそんな目に会わなきゃならないんですか……っ」
何度もしゃくりあげて、抑えることの出来ない涙を頬に伝わせながら私は思っていることを、彼にぶつけてしまった。彼に言っても仕方の無いことだということは誰よりもわかっているけれど、言わないではいられなかった。私が涙を手で拭っていると、俺はね、と彼が静かに切り出す。
「俺はね、俺自身の幸せとかそういうのは結構どうでも良くてさぁ。君たちが幸せになってくれればそれでいいんだよ。俺が捕まって君たちが自由に生きれるなら俺はそれでいいし、それくらい、俺にとって君たち国民は我が子みたいな、大事な人なんだよ」
まるで幼子に絵本を読み聞かせるような口調で、彼はそんなことを言った。泣いている子供をあやすように、私の頬に手を当てて親指で涙を拭って。
「それに俺は幸い人間じゃないからさ、なにかあったとしても死ぬことは無いから！」
「……前は、人間と同じようなものだって言ったじゃないですか……！」
「……そうだね、ごめんね」
のれんに腕押し、糠に釘、豆腐に鎹。私が何を言っても彼は自分を犠牲にすることをやめないのだろう。私はカバンを掴んでコートを手に持ってオフィスを飛び出した。いつから、私は彼を人間と同じように思うようになったろう。
私はやり場のない怒りを抱えながら駅まで走った。
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