16話 ページ17
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彼の声で目を覚ます。体感よりもずっと短い睡眠時間、それだけ深く眠っていたのだろう。しかし妙に冴えわたる目と頭。彼の言う通りに少しでも仮眠を取って正解だった。あくびを噛み殺していると、彼がグッと背伸びをする。その後預かっていたメガネを私にかけながら、彼はまじまじと私を見た。
「うん、顔色良くなったよ」
「ありがとうございます、スッキリしました」
「良かったぁ」
あと５分で昼休みが終わる、私はお手洗いに行くために彼とは別れた。お手洗いの鏡でメイクが崩れていないか確認する。そこまでメイクが濃い方ではないが崩れてしまっては元も子もない。メイクしている時は普段しないメガネのせいで、ファンデーションに跡が着いてしまっている。
指で擦ってその跡をぼかして誤魔化す。相変わらず腫れぼったい瞼も、こころなしか昼休み前よりもスッキリとしている。多くは語らない彼、しかし私が多くを語らずとも察してくれる彼。本当に彼は優しい人だ。祖父が祖国様ということ以上に彼を慕っていたのは彼のこういうところが要因なのだろう。
オフィスのデスクに戻ると多くの人が既にデスクに着いていた。飲みかけのブラックコーヒーを一口飲んで、私はパソコンに向かった。その後は良い意味で集中が途切れなかった。気づいた頃には日が沈んで、終業時間まであと５分というような時間になっていた。
日誌の提出をしなければ、と私は急いでペンケースとファイルに挟まった紙を一枚取り出す。今日のノルマ、やったこと、明日へ持ち越す仕事、別の人に引き継ぐ仕事などを書き記す。一人、また一人、オフィスを去っていく焦りが如実に字に出てしまう。結局提出したのは最後で、彼は笑いながら言う。
「努力は認めるよ」
「すみません……」
「ううん。……ねえ、良かったら一緒に帰ろう？」
少し恥ずかしそうに彼は言う。予想外の言葉に私がぽかんとしていると、彼はハッとしたように慌てて首を横に振った。
「やっぱり今のなし！ ごめんね、変なこと言って！ 忘れて！」
「あ……､ぜひ、あの、一緒に帰りたいです！」
「ほんとう？」
私が頷くと彼は嬉しそうに笑った。帰る準備をする間、会話はなくて、何人の天使が通り過ぎたのだろうか。扉の前で待っている彼に私が駆け寄ると、彼はそっと手を差し伸べた。
「えっと、カバン、持つよ……？」
「あ、はい……､お願いします……？」
大して重くもないカバンを彼に手渡して、私は彼の横に並んだ。
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