13話 ページ14
*ウェールズside
彼女の祖父━━ダフィッドの葬儀は亡くなった日から3日後の日曜日だった。彼と彼女の故郷にある小さな教会で、彼の安らかな眠り顔の横に白い花を手向けて、手を組み膝を着き祈りを捧げる。彼とは友人のように盃を交わしたこともあり、主人と従僕のようにイングランドとの会談に出向いたこともある。
葬儀の間、彼女は一度も涙を見せなかった。
彼が亡くなった日、俺を見た途端に泣き出した彼女。祖父に会って欲しいと懇願する彼女を、俺は思わず抱きしめてしまった。もっと早く彼女に声をかけていれば、法定速度など気にせず車を走らせていれば、そんなタラレバが思い浮かんでは消えていく。
葬儀が終わった頃、彼女の姿が見当たらないことに気がつく。小さな教会を出てみれば、青々とした芝生と花々が咲き乱れる田舎道が続く。教会の真裏には小さな墓地。彼女はそこにいた。祖父の墓石に寄りかかって座り、雲が浮かぶ青い空を眺めている。黒のベール越しに彼女が見る空は、いったいどんな色をしているのだろうか。
おじいちゃんっ子だった彼女が誰よりも悲しんでいる、と彼女の父親は言っていた。彼女に気を使ってか、誰も墓地には近づかなかった。ベールの下の表情は見えない。俺はそっと彼女の横に腰掛けた。
｢……祖父は、長弓の名手でした｣
ぽつり、彼女は雨のようにそう言葉を零した。よく晴れた青空を眺めたまま、彼女は淡々と。
｢そうだね、現代では間違いなく一番の腕だったよ｣
｢祖父は歌うようにウェールズ語を話しました｣
｢うん、同化政策にも負けなかった｣
降り始めた言葉の雨、太陽の輝く青空には似つかわしくない。ぽつり、またぽつり、彼女とダフィッドの知らない顔を知っていく。俺はそれに相槌を打つことしか出来ない。ふと、彼女が俺を見た。黒のベールが邪魔をして表情は見えないけれど、確かに俺を見つめているのがわかる。
｢祖父は、あなたの元に生まれて幸せでした｣
その言葉に胸の奥からせりあがってくる激情。ツンと鼻の奥が痛くなって、目の奥が熱くなって、喉が焼けるような感覚。俺は彼女をまた、力の限り抱きしめた。
｢俺も、俺もね、君やダフィッドみたいな子が俺の元に生まれてきてくれて嬉しいよ｣
声が震えて、鼻声になって、途切れ途切れになった言葉。目から大粒の涙がボロボロと落ちる。
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