【APヘタリア】フォアローゼズに溺れたい【スコ兄】

5杯 ページ5

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ワイルドターキーは香りから味まで、全てが切れ味のいいナイフのようにスパイシーだった。なるほど、これが辛口と甘口か、そんなことをわかった気になった。
(私に味見させるために、彼もハイボールにしたんだ)
気づいてしまったさり気ない気遣いに、思わず胸が飛び跳ねた。きっと彼1人ならロックにしていたはず、私は『ありがとう』と言いながらグラスを彼に返した。

フォアローゼズは、飲めば飲むほどに味が変わるような気がした。最初は苦味とエグ味に辟易したが、香りはやはりオーブンから出したばかりの焼き菓子のようで何度も期待して口をつけた。

「美味い酒なら俺ん家来いよ」

グラスを弄びながら彼はそう言った。今までよりもずっと柔らかい表情で、想像もできないほど優しく微笑みながら。よくあるナンパだと思った。結局この人も、なんて思ったりもした。でもそれでもいいかと思うほど、彼に出会って世界が広がったように思える。

「……家、どこなの？」

終電までに帰れるなら、最悪タクシーで帰れる距離ならついていってしまおうと思ったの。

「スコットランド」
「えっ？」
「知らねえか？ スコットランドだよ、グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国の、グレートブリテン島の上の方だ」
「知ってる知ってる……、知ってるけど……、え、ちょっとわかんない……」

アルコールでぼんやりしていた頭が急激に冷却されたように冷静さを取り戻す。落ち着くためにまたハイボールを飲むけれど、やっぱりなんだか面白くて私は笑ってしまった。彼は笑う私をぽかんとした様子で見て、ムッとした表情に戻ってしまった。

「何が面白いんだ」
「だって、ナンパだと思ったら大西洋超えると思わなくて！」
「誰がこんなちんちくりんの小娘をナンパするか」

面白くなさそうに彼は唇を尖らせた。荒々しい言葉や態度とは裏腹に博識で、大人っぽいかと思えば案外子供のような表情を浮かべて。

「行こうかな、スコットランド」
「ハハ、そう来なくちゃな」

笑う時、彼は眉にシワを寄せる。その顔が、たまらなく可愛いと思ってしまった。誰にも、自分にさえも気を使わず手放しに笑えたのが随分久しぶりな気がした。

「お前、名前は？」
「……名乗る時はそちらが先じゃなくって？」
「あー、……そうだな、スコッチウイスキーが好きだからかスコッチ兄さんなんて呼ばれることが多いな」
「へえ、本名は教えてくれないんだ」

私は大袈裟に拗ねるフリをしてみた。

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