For you ページ37
*スコットランドside
彼女は眠るようにこの世を去っていった。安らかな表情は、彼女の人生が良いものだった証拠だと思いたい。何度も覚悟した彼女の死。瞬きをするように過ぎ去っていった日々。それでも俺にとって彼女との日々は、半永久的なこの時を生きるには十分すぎる思い出だった。
俺はこの思い出だけを頼りに生きていくのだろう。
彼女は庭に埋めた。葬儀という葬儀はしなかった。俺だけが彼女の墓の前で泣く。本当に俺にとっては彼女は、最初から最期まで可愛い少女だったのだ。ずっと、ずっと。
この家には彼女の匂いが残りすぎている。
お揃いで買ったティーカップ、グラス、皿。彼女の服に、化粧品、彼女の靴、好きだったお菓子、それからまだ開けていないフォアローゼズ。彼女が買い揃えた料理道具は俺には使い方が分からない。今すぐ彼女が帰ってきてもなんの問題もなく過ごせる、それくらいには彼女のものが残っているのだ。
俺の視界の端にはいつも彼女がいるような気がした。彼女を埋めたその日、俺は誰も載っていない助手席に彼女との思い出を乗せて、断崖絶壁のあの海へと車を走らせた。夜中に出発したが、到着する頃には朝日が覗いていた。
水平線の位置も、潮風も、海や自然の匂いも、その化身である俺の姿も変わらない。ただ横に彼女がいない。俺が水平線を臨む時、彼女はいつも俺を見ていた。俺が未来を見ている時、彼女はいつも俺との今を見ていた。
「俺はお前のために何かできたか?」
彼女の墓石に向かって何度も呟いた言葉を、海に向かってもう一度投げた。海の答えは波の声だった。まだ、隣を見れば彼女がいるのではないかと錯覚してしまうほどに俺もこの海も変わっていない。
既に枯れたと思っていた涙がまた、頬を伝った。彼女はあまり煙草を吸わないくせに、俺が昔に渡したジッポをずっと持っていた。オイルも切れて火がつかないそれを、大事そうに。
『あなたに全てを捧げる』
シェリーと同じ意味を持つそれを、彼女はきっと知らない。俺は確かに彼女に全てを捧げたつもりだ。そして同時に彼女から全てを奪ったような気がした。日本での生活を、普通の結婚生活を、子供を持つ幸せを、共に老いる幸せを、俺は彼女から奪ってしまった。
それでも彼女の安らかな寝顔を思い出すと、幸せだったのだろうと思わずにはいられない。
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おず(プロフ) - おしゃち!さん» コメントありがとうございます💕最後までご愛読頂いた上にそのように言っていただけて嬉しい限りです、ありがとうございます!これからも精進して参ります! (2月25日 11時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
おしゃち! - 完結おめでとうございます!出会いによって人生が変わっていくドラマチックなストーリー、毎話ドキドキしながら読ませて頂きました。ラストの回収が見事過ぎて言葉が出ません🥲︎素敵な作品をありがとうございました!! (2月24日 1時) (レス) id: cebb1c38ee (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - メイベルさん» コメントありがとうございます!一緒にスコ兄の底なし沼にハマりましょう!!アーサーの方も読んでくださりありがとうございます、更新もラストスパート切りましたので頑張ります!お付き合いいただけると幸いです😍 (2月22日 12時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
メイベル - コメント失礼します!!大人っぽい雰囲気最高です!!元々好きでしたがもっとスコ兄に沼りました!アーサーの方の小説もとてもキュンキュンして読みました🥰お身体に気をつけて更新頑張ってください! (2月22日 0時) (レス) id: 40a9933e11 (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - ononon245さん» コメントありがとうございます!以前のもの読んでくださったようで嬉しいです、ありがとうございます🥰スコ兄ということで大人っぽさ全開で書いてみています!楽しんでいただけると幸いです🥰 (2月9日 23時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
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