34杯 ページ34
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彼からのプロポーズに際して、私は日本を離れることになった。幸い英語も話せるし、エディンバラに行くことに不満も不安もない。彼には私の両親に会ってもらった。両親は私が日本を離れることを寂しがりつつも、祝福してくれた。
それから私も、彼の弟たちに挨拶をした。ウェールズさん、北アイルランドさん、イングランドさん、それから弟では無いと言っていたけれどアイルランドさん。彼に似ていないようで似ている、国に兄弟なんてって思ったけれど彼らは案外仲がいいようだ。
彼と私の家族だけで行われたこじんまりした結婚式で、お互いの左手の薬指に指輪をはめて、誓のキスをした。日本の結婚式場とは違う、本物の教会。まさか王室や首相から祝辞が届くとは思わなかった。彼と私の胸には4本の薔薇を編んだお揃いのコサージュ。
「綺麗だ」
「本当?」
「ああ、俺にはもったいねえ。お前は世界で一番綺麗だ」
「ありがとう」
彼の歯の浮くようなくさいセリフにも、謙遜や冗談で返すことなく『ありがとう』と言えるようになった。彼はその度に『良い女になりやがって』と照れ笑いをした。純白に映える赤い薔薇。
美味い酒なら俺ん家に来いよ、会ったばかりの時に彼はそう言った。結局私はスコットランドのお酒であるスコッチよりもアメリカのバーボン━━フォアローゼズの方が好きだった。それでも彼と一緒にいると何度も新しいものに出会える。
部屋に常備されたフォアローゼズ、それから様々なお酒にシェイカー、たくさんのペアのグラスに、富士山が描かれたおちょこまで。彼は料理があまり上手くないから私がよく作る。喧嘩した日にはお弁当作りをサボって、仲直りの印にとびきり美味しいワインをあけて。私たちの家族ごっこは私の命が絶えるまで続くのだろう。
アメリカさんが遊びに来てくれた時、フォアローゼズを贈ってくれた。イングランドさんたちが遊びに来てくれた時は、お酒に合うおつまみと綺麗な薔薇を。フランスさんが遊びに来てくれた時はワインとフルコースをご馳走してくれた。確かに法的な拘束力もなければ、二人の関係を証明するものもない。
それでも私たちを祝福してくれる人達はこんなにもたくさんいて、彼らこそが私たち二人の関係の証人なんだろう。お揃いの結婚指輪の裏側には私と彼の名前が掘ってある。
私の人生は彼のためにあると言っても過言ではない。
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おず(プロフ) - おしゃち!さん» コメントありがとうございます💕最後までご愛読頂いた上にそのように言っていただけて嬉しい限りです、ありがとうございます!これからも精進して参ります! (2月25日 11時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
おしゃち! - 完結おめでとうございます!出会いによって人生が変わっていくドラマチックなストーリー、毎話ドキドキしながら読ませて頂きました。ラストの回収が見事過ぎて言葉が出ません🥲︎素敵な作品をありがとうございました!! (2月24日 1時) (レス) id: cebb1c38ee (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - メイベルさん» コメントありがとうございます!一緒にスコ兄の底なし沼にハマりましょう!!アーサーの方も読んでくださりありがとうございます、更新もラストスパート切りましたので頑張ります!お付き合いいただけると幸いです😍 (2月22日 12時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
メイベル - コメント失礼します!!大人っぽい雰囲気最高です!!元々好きでしたがもっとスコ兄に沼りました!アーサーの方の小説もとてもキュンキュンして読みました🥰お身体に気をつけて更新頑張ってください! (2月22日 0時) (レス) id: 40a9933e11 (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - ononon245さん» コメントありがとうございます!以前のもの読んでくださったようで嬉しいです、ありがとうございます🥰スコ兄ということで大人っぽさ全開で書いてみています!楽しんでいただけると幸いです🥰 (2月9日 23時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
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