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33杯 ページ33

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彼は何度も口を開いては閉じ、何かを言うのを躊躇っている様子だった。彼の持つ宝石のような瞳がまぶたに隠され、深く息を吸った後、意を決したように彼は口を開いた。

「俺とお前とでは生きる時間が違う。俺には戸籍なんてねえし、結婚もできない。それから……子種もない。お前にも、お前の両親にも子供を抱かせてやることは出来ない。お前に合わせて日本に住むことも出来ない」

彼の言葉に私は静かに相槌を打つことしか出来なかった。何を言われるのかも分からない今は、彼の言葉に耳を傾ける他にない。

「なあ、今ならまだ引き返せるぜ。まだお前は若いんだ、他の普通の男と付き合った方が幸せなのかもしれない」
「勝手なこと言わないで!!」

彼の言葉を遮るように、私は叫んだ。あの時フォアローゼズを飲んだ私の気持ちを否定されたような、そんな気分になったの。彼は小さく謝る。

「ねえ、何が言いたいの? 言いたいこと、そんなことじゃないでしょ?」
「……ハハ、まあな」

彼はロングコートのポケットに手を突っ込んで、何か小さな箱を取り出した。片膝をついて、その箱を開けて見せる。背の高い彼を見下ろすことは少ないからか少し新鮮だ。小さな箱の中にはキラキラと輝く宝石がついた指輪があった。

「愛してる、家族になってくれないか」

私の答えは決まっていた。私が頷くと彼は勢いよく立ち上がって私を強く抱きしめた。彼と出会って5年が経った。彼は私の左手の薬指にその指輪をはめて、そしてキスをする。陽の光をキラキラと反射する宝石は、海の色も、彼の瞳の色も、芝生の色も、全てを吸い込むような美しさだった。

空が宇宙色になった頃、やっと市街地の道路についた。私たちは車の中で他愛もない話を続けた。私は薬指に光る指輪を何度も見つめる。

「結婚はできないんじゃないの?」
「できない、ただ、俺の家族ごっこに付き合って欲しいんだ」
「……うん、付き合ってあげる。その変わり、私の家族ごっこにも最後まで付き合ってね」
「そのつもりだ」

二人の関係に未来などないし、法的に二人の関係を縛る契約もない。それでも私は、私と彼は二人でいることを選んだ。半自暴自棄になっていた私の人生を180度変えた彼は、大人なようで案外子供っぽくて。二人の関係に未来はないけれど、一緒にいない未来も想像できないの。

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おず(プロフ) - おしゃち!さん» コメントありがとうございます💕最後までご愛読頂いた上にそのように言っていただけて嬉しい限りです、ありがとうございます!これからも精進して参ります! (2月25日 11時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
おしゃち! - 完結おめでとうございます!出会いによって人生が変わっていくドラマチックなストーリー、毎話ドキドキしながら読ませて頂きました。ラストの回収が見事過ぎて言葉が出ません🥲︎素敵な作品をありがとうございました!! (2月24日 1時) (レス) id: cebb1c38ee (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - メイベルさん» コメントありがとうございます!一緒にスコ兄の底なし沼にハマりましょう!!アーサーの方も読んでくださりありがとうございます、更新もラストスパート切りましたので頑張ります!お付き合いいただけると幸いです😍 (2月22日 12時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
メイベル - コメント失礼します!!大人っぽい雰囲気最高です!!元々好きでしたがもっとスコ兄に沼りました!アーサーの方の小説もとてもキュンキュンして読みました🥰お身体に気をつけて更新頑張ってください! (2月22日 0時) (レス) id: 40a9933e11 (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - ononon245さん» コメントありがとうございます!以前のもの読んでくださったようで嬉しいです、ありがとうございます🥰スコ兄ということで大人っぽさ全開で書いてみています!楽しんでいただけると幸いです🥰 (2月9日 23時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:おず | 作者ホームページ:無い。  
作成日時:2024年2月7日 15時

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