【APヘタリア】フォアローゼズに溺れたい【スコ兄】

32杯 ページ32

*Aside




私が日本に帰ったのは彼と出会ってからちょうど1年後だった。アメリカの短期大学を卒業した後に休学した日本の大学に復学して、普通の人よりも長い大学生活を送った。私は何かを学びたくて大学に入ったわけではない。みんな行くから、就職したくないから。そのことを彼に話したことがあった。彼は笑いながら言う。

「俺なんて未だに何がしてえのかわかんねえよ」

数千年生きた彼にすら分からないものを、20年そこらしか生きていない私に分かるわけがない、だから焦らなくても良いと彼なりの励ましだったのだろう。

人より長かった思春期反抗期も、アメリカから帰る頃には完全に終わっていて、両親に向ける思いは感謝以外の何物でもなかった。両親には彼とのことを包み隠さず話した。そして否定せず全て受け入れてくれた。
(私なら、きっと無理だろうな)
親の偉大さを思い知って、私は勉学勤しんだ。

彼は時間を見つけてはメールをくれたり、電話をしてくれたり、案外マメな性格のようでいつも私を気にかけてくれた。私が会いたいと言ったら次の日に空港にいたり、逆にサプライズで私がエディンバラに行ってみたり。普通の国際カップルとしてなかなか仲良くやれていたと思う。

それなりに喧嘩もしたし、喧嘩の数だけ仲直りもしてきた。私が就職すれば会える時間も減って、それでも彼も私も2人でいるための努力は欠かさなかったと思う。

「ドライブに行かないか」

私がエディンバラに行ったある日の朝、彼はそう言った。私が頷けば足早に車に乗り込む。市街地を抜けて自然豊かな田舎道を走る。昔、彼の運転する横顔を見て彼との生きる時間の違いに落ち込んだ。

どうやっても私は不老不死にはなれないし、なりたいとも思わない。彼と一分一秒でも長く生きていければそれでいい。見覚えのある断崖絶壁の海。彼は車を止めた。彼が先に車を降りて、それから助手席の扉を開けて私に手を差し伸べる。それを素直に待つようになった私も、彼と過ごす日々に慣れた証拠なのだろう。

「覚えてるか？ 一度ここに来たんだぜ」
「もちろん」

潮風が頬を撫でる。波の音と、風が草を揺らす音だけが響く。何も言わない彼は、水平線のさらに向こうを見つめた。私はそんな彼の横顔を見つめる。

「A」

ふと彼がこちらを見るから、目が合って気まずい。それでも彼の緑色の瞳から目が離せない。

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