4杯 ページ4
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「それはザ・グレンリベットっつうスコッチウイスキーで、果物みたいな甘みと燻製みてえな匂いが特徴だ」
「……すごく美味しい」
「ハハッ、その美味さがわかるなら素質あるぜ?」
俺にももう一杯、とマスターに注文する彼。ロックグラスに注がれた黄金色のウイスキーが、先程とは全く別物のように思えてしまう。残ったトニックハイボールを一気に飲み干すと、マスターが笑って言った。
「ここはアメリカなんだ、スコッチばかり勧めてちゃ顔が立たん。バーボンも飲んでいきなさい」
「あー、……ごめんなさい、飲みたいけど、あんまり手持ちがないの」
「チップ分の酒だと思いなさいな」
マスターの好意が申し訳なくて、もう一度断ろうと私が口を開くと同時に隣の彼が『野暮だな』と呟いた。そして彼はまだほとんど減っていないロックグラスのウイスキーを一気に飲み干して、スーツの懐からドル札を何枚も取り出してチップ分を差し引いても多すぎる枚数をマスターに手渡した。
「彼女に1番いいフォアローゼズをハイボールで、俺にはワイルドターキーをハイボールで頼む」
「でも……、なんだか申し訳ないです」
「それが野暮だって言ってんだ、昔の日本人はもっと粋なヤツらばっかりだったぞ。こういう時、いい女は『ありがとう』だけ言うんだよ」
「……ありがとう?」
私が戸惑いながらお礼を言うと彼は口角を上げ、歯を見せて笑った。どうして日本人だってわかったの、どうして名前は聞いてくれないの、って。聞きたいことも言いたいことも沢山あったけれど、また野暮だって一蹴されてしまいそうで言葉を飲み込む。そして私と彼の前にそれぞれハイボールが置かれた。
ザ・グレンリベットのハイボールよりも色は薄く、フルーティな香りとはかけ離れたバニラのような、焼き菓子に似た香りが炭酸の泡が弾ける度に撒き散らされる。フォアローゼズ、薔薇が描かれた瓶からは想像できないほど、どこか幼く甘い香り。私は香りどおりの甘さを期待しながらハイボールを口に含むが、期待は裏切られた。苦味、ほのかな酸味、その後に広がるアルコールの味、そして華やかな鼻抜け。
思わずぼうっとしてしまうほどの期待と裏切りが混じりあった華やかさは、まるで1つの劇を見終わったあとの感情と似ていた。
「飲んでみるか?」
差し出されたワイルドターキーのハイボール。私は小さく頷いて、少し減った彼のハイボールを受け取った。
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おず(プロフ) - おしゃち!さん» コメントありがとうございます💕最後までご愛読頂いた上にそのように言っていただけて嬉しい限りです、ありがとうございます!これからも精進して参ります! (2月25日 11時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
おしゃち! - 完結おめでとうございます!出会いによって人生が変わっていくドラマチックなストーリー、毎話ドキドキしながら読ませて頂きました。ラストの回収が見事過ぎて言葉が出ません🥲︎素敵な作品をありがとうございました!! (2月24日 1時) (レス) id: cebb1c38ee (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - メイベルさん» コメントありがとうございます!一緒にスコ兄の底なし沼にハマりましょう!!アーサーの方も読んでくださりありがとうございます、更新もラストスパート切りましたので頑張ります!お付き合いいただけると幸いです😍 (2月22日 12時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
メイベル - コメント失礼します!!大人っぽい雰囲気最高です!!元々好きでしたがもっとスコ兄に沼りました!アーサーの方の小説もとてもキュンキュンして読みました🥰お身体に気をつけて更新頑張ってください! (2月22日 0時) (レス) id: 40a9933e11 (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - ononon245さん» コメントありがとうございます!以前のもの読んでくださったようで嬉しいです、ありがとうございます🥰スコ兄ということで大人っぽさ全開で書いてみています!楽しんでいただけると幸いです🥰 (2月9日 23時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
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