【APヘタリア】フォアローゼズに溺れたい【スコ兄】

30杯 ページ30

*スコットランドside




彼女が飲んだフォアローゼズ。バーボンなんてガキくさいウイスキーだと決めつけていた。確かに美味いが、香りは甘ったるくて味はスッキリと淡白。スコッチに比べればまるでガキだとばかり思っていた。しかし彼女がフォアローゼズを飲む時の表情は恍惚で見惚れてしまう。
(決めつけてた俺の方がガキくさいかもしれねえな)

彼女が何を頼むのか、そんなのは分かりきっていたようで諦めていたような期待していたような。フォアローゼズを頼んだ時には安堵と喜びが混ざったようなため息が漏れてしまった。

フォアローゼズの甘い香りは彼女にピッタリだ。どんな香水も敵わないほどに彼女の香りだった。今すぐに抱きしめてキスをしたい、彼女にそんな劣情を抱くのは何度目だろうか。彼女の不安定な素直さを全て俺だけのものにしてしまいたいと何度思ったことか。

彼女のグラスにつける唇に触れたい。

甘々しい彼女の瞳に俺だけを映したい。彼女の左手の薬指に指輪をはめたい。純白のドレスに身を包んだ彼女の隣に立ちたい。彼女との子供はさぞ可愛いだろう。そんな欲望ばかりが先走る。俺が彼女とそんなふうに結ばれることはないというのに。

「泣いてるの？」
「……野暮だな」
「心配くらいさせてよ」

バーが薄暗いのは大人が涙を流すのを隠すため。バーは大人の止まり木。彼女の未熟な優しさに触れると、より一層愛しく思えて。

「意外と泣き虫だよね」
「うるせえ」

1杯だけ飲んで、バーを出て向かったのは彼女の家だった。彼女の家は前に来た時とは違って空き缶も転がっておらず整理されつつも、大学生らしくノートパソコンや参考書が机に広がっていた。

「日本に帰った時、土足で家に上がっちゃいそう」
「日本では脱ぐもんな」
「うん、いつか連れてってあげる」
「……楽しみにしてるよ」

そんなふうに笑う彼女。日本ぐらい行ったことある、日本にはいつ帰るんだ、これから俺たちはどうなるんだ。そんな言葉が脳裏によぎる。俺は自分で思っているよりずっと、彼女と同じように不安定なんだろう。

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