25杯 ページ25
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15分ほど経つと再び電話が鳴る。こんな短期間で何度も電話をすることも珍しくてなんだか面白くなってしまう。
「何が見えるんだ?」
「なんか、大きいビル」
「市内にいるんだよな?」
「うん、いるよ」
また切れる電話、しばらくするとまた鳴る電話。電話に出ると、先程までは車のエンジン音が一緒に聞こえていたのに今回は彼の荒くなった息が混じる。
「何が見える?」
「……スコットランドさん、かな」
少しのハウリングに気づいた時には彼の腕の中にいた。通行人の目など気にせず、彼は私を逃がさないようにと強く強く抱きしめた。
「愛してる」
それ以外の言葉が出ないと言わんばかりに彼は私の肩に顔を埋めて何度も呟いた。体感時間は10分、時計を見れば2分と経っていない間、私は彼の腕の中で愛を感じていた。お互いの顔を見れば、私も彼もクマを作って眠そうにしているから、それがなんだか面白くて目を合わせて笑い合う。
彼は私の手を優しく強く繋ぎ止めたまま、近くに止まっていたタクシーに声をかけて乗り込む。彼が運転手に伝える聞き慣れない住所は、彼の家の住所だろうか。車内では言葉を交わさなかったけれど、それでも彼は私の手を離さなかった。
着いたのはエディンバラの郊外にある庭付きの平屋であった。日本では見かけないような大きな家、豪邸という訳では無いけれど1人で住むには十分すぎる程大きい家だ。中に入ればほんのり紅茶の匂いがした。
「普段はシェアハウスにいる」
「シェアハウス?」
「……弟たちとな」
彼は私用にコーヒーを、自分用には紅茶を淹れて2人掛けのソファに並んでる座った。何から話せばいいのか分からないのも事実、長旅の疲れと1人で全く知らない土地を歩いていた気疲れで話す気になれないのも事実。しばらくの沈黙の中でコーヒーを冷ます息の音だけが響く。私が大きく欠伸をすると、彼もつられて欠伸をした。
「客室に案内するか?」
「ううん、一緒がいい」
「……おう」
お昼の1時前、私たちは彼の家にあったものを肴にお酒を流し込んだ。陽の高い時間に飲むお酒は背徳感も相まって美味しい。久々に飲んだスコッチの味は今まで飲んだどのウイスキーの感動をも上回るようなものだった。夕方とまでは行かないくらいの時間、私と彼は同じベッドに向き合って横たわる。
「びっくりした?」
「当たり前だろ、お前から連絡が来ただけで相当だってのに、エディンバラにいるなんて」
彼は驚きと呆れが混じったような顔で笑った。
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おず(プロフ) - おしゃち!さん» コメントありがとうございます💕最後までご愛読頂いた上にそのように言っていただけて嬉しい限りです、ありがとうございます!これからも精進して参ります! (2月25日 11時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
おしゃち! - 完結おめでとうございます!出会いによって人生が変わっていくドラマチックなストーリー、毎話ドキドキしながら読ませて頂きました。ラストの回収が見事過ぎて言葉が出ません🥲︎素敵な作品をありがとうございました!! (2月24日 1時) (レス) id: cebb1c38ee (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - メイベルさん» コメントありがとうございます!一緒にスコ兄の底なし沼にハマりましょう!!アーサーの方も読んでくださりありがとうございます、更新もラストスパート切りましたので頑張ります!お付き合いいただけると幸いです😍 (2月22日 12時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
メイベル - コメント失礼します!!大人っぽい雰囲気最高です!!元々好きでしたがもっとスコ兄に沼りました!アーサーの方の小説もとてもキュンキュンして読みました🥰お身体に気をつけて更新頑張ってください! (2月22日 0時) (レス) id: 40a9933e11 (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - ononon245さん» コメントありがとうございます!以前のもの読んでくださったようで嬉しいです、ありがとうございます🥰スコ兄ということで大人っぽさ全開で書いてみています!楽しんでいただけると幸いです🥰 (2月9日 23時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
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