24杯 ページ24
*
「ねえ、いますぐ会いに来てよ」
朝日の輝く空港で、電話口から聞こえる彼の慌てた声が面白い。アメリカを発ったのが時差のせいで昨日なのか一昨日なのか今日なのか分からない。今すぐ行くからどこにいるんだ、なんて少し嬉しそうな彼の声が次にどんな驚きの声をあげるのかが楽しみだ。私は少しにやけたような声で言う。
「エディンバラ!」
彼の飲み物を吹き出す音とむせかえる音が電話口から飛び出す。彼が予想通りの、いやそれ以上の反応を見せてくれたことに満足して私は落ち着いた頃を見計らって言う。
「そっちは深夜でしょ?」
「おう、ご存知の通り深夜の1時だよ」
「で、来てくれるの?」
「ったく、……5時間で行く」
にやりと得意気なその声はなんだか懐かしいような気がした。電話が切れたあと、身一つで訪れたエディンバラの空気を大きく吸い込んだ。近未来的な建物の隙間から覗く歴史的な建物、アメリカよりもイギリスの発音に近い英語、時々日は覗くけれど常に薄曇りで。
ここが彼の守ってきた場所なんだ。
どこを切り取っても映画のワンシーンのような空港の周辺のカフェで朝食をとった。言葉の通り身一つでアメリカを飛び出した私は大きな荷物もなければ、宿泊するホテルすらも取っていないし、帰りの飛行機のチケットも取っていない。
一歩間違えたら不法滞在を疑われてしまうようなところだが、日本のパスポートのおかげで助かった。もし本当に止められたら彼に連絡をしようと思っていたけれど、思いつきがあまりに上手く行きすぎてしまった。
両親には本当に感謝している。職にも就かず大学生という名の下でフラフラと遊び歩いている親不孝娘に、何も言わずに金銭的援助をしてくれた。そして今回のエディンバラ行きのことも、すべて包み隠さずに話した。
(行ってきなさい、なんて)
私が親になった時、そんなに子供を信じてあげられるのかなとも思った。
仕事へ向かう人々に紛れて私は空港の周辺を練り歩いていた。日本と違うことはもちろん、アメリカともかなり毛色が違うような気がしてまるで異世界に来たような感覚だった。時計の針が11時を指して、なんとなくお腹が減ってきたような頃に電話が鳴る。
「どこにいる?」
「んー、迷子」
「近くに何が見えるんだ?」
「ふふ、猫のいるカフェ」
「……やってやるよ、世紀の鬼ごっこ」
彼から逃げるように私は歩みを進めた。
21人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おず(プロフ) - おしゃち!さん» コメントありがとうございます💕最後までご愛読頂いた上にそのように言っていただけて嬉しい限りです、ありがとうございます!これからも精進して参ります! (2月25日 11時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
おしゃち! - 完結おめでとうございます!出会いによって人生が変わっていくドラマチックなストーリー、毎話ドキドキしながら読ませて頂きました。ラストの回収が見事過ぎて言葉が出ません🥲︎素敵な作品をありがとうございました!! (2月24日 1時) (レス) id: cebb1c38ee (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - メイベルさん» コメントありがとうございます!一緒にスコ兄の底なし沼にハマりましょう!!アーサーの方も読んでくださりありがとうございます、更新もラストスパート切りましたので頑張ります!お付き合いいただけると幸いです😍 (2月22日 12時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
メイベル - コメント失礼します!!大人っぽい雰囲気最高です!!元々好きでしたがもっとスコ兄に沼りました!アーサーの方の小説もとてもキュンキュンして読みました🥰お身体に気をつけて更新頑張ってください! (2月22日 0時) (レス) id: 40a9933e11 (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - ononon245さん» コメントありがとうございます!以前のもの読んでくださったようで嬉しいです、ありがとうございます🥰スコ兄ということで大人っぽさ全開で書いてみています!楽しんでいただけると幸いです🥰 (2月9日 23時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ