3杯 ページ3
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欧米人の体格に合わせて作られたバーカウンターは、アジア人の私には合わない。椅子は高すぎて地面に足を着くことが出来ないから、足を組んで固定することも出来ない。ちゅうぶらりんになった足から、たまにピンヒールがずり落ちる。そんな私とは対照的に、背が高く恰幅のいい彼は足掛けに足をかけることも無く座り、足もピッタリついて、足も組む。
「これはバーボン? 残念だけど、私はスコッチの方が好きなの」
「ハッ、残念、これはスコッチだ」
「……へえ」
テキトーに言ったウイスキーの種類、本当は酸いも甘いも分からないくせに。グラスを揺らす度に溶けた氷がウイスキーに混じっていく。荒々しい彼とこのウイスキーの匂いはあまりに合いすぎて、彼専用の香水のようだった。
「マスター、トニックウォーターとソーダをくれ。それからロンググラスを2つと、マドラーを」
「はいよ、あんちゃん」
栓を抜いた瓶入りのトニックウォーターと炭酸水、そして細長い氷を入れたロンググラス。彼はマスターからそれらを受け取って、私の手元にあったウイスキーをひょいと取り上げた。ふたつのグラスに半分ずつウイスキーを流し入れ、それぞれトニックウォーターと炭酸水を注ぎ、マドラーで軽く混ぜる。
しゅわしゅわと音を立てる炭酸、泡が弾ける度にウイスキーの苦しいほど芳醇な香りが爽やかで、そしてタルトタタンのような焦げた甘みを含んだ香りに変わる。飲んでみろと促されるまま、炭酸水で割ったウイスキーを口に含むと炭酸の爽やかさと樽の匂いと、まるでりんごのような甘さとが一気に口に広がった。
「飲みやすくなっただろ?」
ニヤリとしたり顔。普段飲んでいる安酒で作るハイボールなんかとはわけが違くて、香りから味まで何もかもが完璧なような気がした。私がついにハイボールを飲み干してしまうと、彼はトニックウォーターで割ったトニックハイボールを差し出した。
ジントニックもウォッカトニックもあんまり好きじゃない、トニックウォーターなんて苦い炭酸水。そんなことを思いながら、おそるおそる口に含む。ウイスキーの甘味をキリッと整えるトニックウォーターの苦味、炭酸で香りが弾け飛んで、なぜだかレモンのような優しい酸味が後味に広がる。
「美味いだろ」
私はその言葉に勢いよく頷くことしか出来なかった。お酒は酔うため、楽しくなるために飲むもの、その認識がこのウイスキーによって覆されそうになる瞬間だった。
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おず(プロフ) - おしゃち!さん» コメントありがとうございます💕最後までご愛読頂いた上にそのように言っていただけて嬉しい限りです、ありがとうございます!これからも精進して参ります! (2月25日 11時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
おしゃち! - 完結おめでとうございます!出会いによって人生が変わっていくドラマチックなストーリー、毎話ドキドキしながら読ませて頂きました。ラストの回収が見事過ぎて言葉が出ません🥲︎素敵な作品をありがとうございました!! (2月24日 1時) (レス) id: cebb1c38ee (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - メイベルさん» コメントありがとうございます!一緒にスコ兄の底なし沼にハマりましょう!!アーサーの方も読んでくださりありがとうございます、更新もラストスパート切りましたので頑張ります!お付き合いいただけると幸いです😍 (2月22日 12時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
メイベル - コメント失礼します!!大人っぽい雰囲気最高です!!元々好きでしたがもっとスコ兄に沼りました!アーサーの方の小説もとてもキュンキュンして読みました🥰お身体に気をつけて更新頑張ってください! (2月22日 0時) (レス) id: 40a9933e11 (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - ononon245さん» コメントありがとうございます!以前のもの読んでくださったようで嬉しいです、ありがとうございます🥰スコ兄ということで大人っぽさ全開で書いてみています!楽しんでいただけると幸いです🥰 (2月9日 23時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
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