18杯 ページ18
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出会い頭に花束を渡された。なにかの祝い事以外で渡されることなんてないから、私はかなり驚いてしまった。仕事中の彼と偶然会った日から1週間、彼は私を見つけると嬉しそうに駆け寄って花束を渡した。
「どうして花束? なにかの記念日?」
「花屋を通りかかったらお前の顔が浮かんだんだよ」
「……ロマンチックだね」
「……悪い、迷惑だったか?」
しゅん、と太い眉尻が垂れ下がるのを見て私は慌てて首を振る。嬉しさよりも驚きや疑問が先行してしまったばかりに、彼を不安にさせてしまった。私は花束を胸いっぱいに抱きしめて、彼にお礼を言う。彼は安心したような嬉しそうな顔をして私の髪にキスを落とした。
私は大学があって、彼も仕事があるから会うのはいつも夜で、お酒を飲んで彼の滞在してるホテルで一晩を一緒に過ごす、というのがいつものパターン。たまに休日に会って、映画を見てコーヒーを飲むこともあるけれど、休日が合うことなんて滅多になくて。
アルコールのせいでぼんやりする脳、眠さとドライアイでしょぼしょぼして瞬きが増える目で、隣に寝転がる彼に聞いた。パジャマ2枚分を隔てた肌と肌はあまり温かさは感じないけれど、それでもそこに彼がいることを感じることが幸せだ。
「ねえ、この前会った時、なんであんなに嬉しそうだったの?」
「お前の大学近くで会った時か?」
「うん」
私が小さく頷くと、眠いのがバレたのか彼はそっと胸に抱き寄せて頭を優しく撫でながら耳元で、つぶやくように答えた。
「そりゃあ、思わぬ場所で恋人に会ったら嬉しいだろ」
「ん……、フランシスさんとは仲良いの?」
「……まあな、腐れ縁みてえなもんだ」
「なんで、フランシスさんは本名なのにあなたは教えてくれないの」
「ハハ、あいつも偽名だよ」
夢と現実の狭間のような、ふわふわした感覚。彼の温もりだけが確かで、現実への頼りで。完全に意識を手放す直前に彼の声。
「俺の名前は━━━━━━」
無情にもプツンと切れる意識、彼の低くて優しい声と温もりと、心臓の音だけが確かでそれ以外は曖昧なまま。いっそ、彼との出会いから思い出全部が夢で、目覚めたら日本の大学に通ってる、そんなオチの方がマシだって思うほどに私は彼のことを何も知らないの。
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おず(プロフ) - おしゃち!さん» コメントありがとうございます💕最後までご愛読頂いた上にそのように言っていただけて嬉しい限りです、ありがとうございます!これからも精進して参ります! (2月25日 11時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
おしゃち! - 完結おめでとうございます!出会いによって人生が変わっていくドラマチックなストーリー、毎話ドキドキしながら読ませて頂きました。ラストの回収が見事過ぎて言葉が出ません🥲︎素敵な作品をありがとうございました!! (2月24日 1時) (レス) id: cebb1c38ee (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - メイベルさん» コメントありがとうございます!一緒にスコ兄の底なし沼にハマりましょう!!アーサーの方も読んでくださりありがとうございます、更新もラストスパート切りましたので頑張ります!お付き合いいただけると幸いです😍 (2月22日 12時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
メイベル - コメント失礼します!!大人っぽい雰囲気最高です!!元々好きでしたがもっとスコ兄に沼りました!アーサーの方の小説もとてもキュンキュンして読みました🥰お身体に気をつけて更新頑張ってください! (2月22日 0時) (レス) id: 40a9933e11 (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - ononon245さん» コメントありがとうございます!以前のもの読んでくださったようで嬉しいです、ありがとうございます🥰スコ兄ということで大人っぽさ全開で書いてみています!楽しんでいただけると幸いです🥰 (2月9日 23時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
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