17杯 ページ17
*
「お前、シャネル5番の匂いがしたら振り返る癖はいつまで治んねえんだよ」
彼がそう言ってフランシスさんを小突くと、フランシスさんは少し恥ずかしそうにはにかんだ。友達はいつもシャネル5番をつけていた。その匂いに気がついてフランシスさんは振り返ったのか、私はそう1人で納得した。
「俺の永遠の恋人の匂いだからね」
フランシスさんの微笑みは暖かくて優しくて、寂しそうで、それでいて自信に満ち溢れたような不思議なものだった。先程まで英語ではない言葉で話していたのに、私たちと合流した途端に英語に自然と切り替えたフランシスさんの気遣い、そしてフランシスさんの言葉を理解出来ていた私の彼。
私が彼の方を見ると、彼は私の方ばかり見ていたようで目が合う。私はなんだか恥ずかしくて目を逸らしてしまうけれど、彼は心底愛おしそうな微笑みを浮かべながら私を見つめるばかりで。アイラブユー、なんて口パクでして。
「ねえ、聞いてるより素敵な人ね」
「そうでしょ?」
友達がそう耳打ちするから、私は照れ隠しも含めて自慢げに返した。小さく笑い合う私と友達に向かって、フランシスさんは手を広げて言う。
「それはそうと、マドモアゼルたち、お兄さんとランチでもどう?」
「お前、人の恋人を堂々とナンパしてんじゃねえよ」
冗談ぽくもあり、本気でもあり、彼はそんな様子でフランシスさんの方を掴んで止める。
(仲、良いんだな)
友人と話す彼のことを見るのは初めてだった。こんなに無邪気に笑うのね、でもこの笑顔は見た事あるかも、そんな曖昧な記憶。
もっと色んな表情が見たい、って。そんなふうに思ったの。無邪気に笑うところも、真剣に仕事をするところも、少し怖そうだけど怒ったところも、愛を呟くところも。見たいって、知りたいって。
「……っておい、会議遅れるぞ! すまん、またな!」
腕時計をチラ見した後、彼は慌てた様子でフランシスさんの首根っこを掴んでズルズルと引きずるようにして私達の元から去っていく。ヘラヘラと笑いながら私たちに手を振るフランシスさんとはまるで真逆だ。彼らの背中を見送ったあと、友達と目を合わせて笑った。
「Aの彼、本当に素敵」
「……ありがとう、でも私にはもったいないかも」
「何言ってるの! Aだって素敵なんだからピッタリお似合い!」
ヘーゼル色の彼女の瞳が、本気だと伝えてくる。私はそんな彼女すらも愛おしく思えてきて、コーヒーを零さないように気をつけながらハグをした。
21人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おず(プロフ) - おしゃち!さん» コメントありがとうございます💕最後までご愛読頂いた上にそのように言っていただけて嬉しい限りです、ありがとうございます!これからも精進して参ります! (2月25日 11時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
おしゃち! - 完結おめでとうございます!出会いによって人生が変わっていくドラマチックなストーリー、毎話ドキドキしながら読ませて頂きました。ラストの回収が見事過ぎて言葉が出ません🥲︎素敵な作品をありがとうございました!! (2月24日 1時) (レス) id: cebb1c38ee (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - メイベルさん» コメントありがとうございます!一緒にスコ兄の底なし沼にハマりましょう!!アーサーの方も読んでくださりありがとうございます、更新もラストスパート切りましたので頑張ります!お付き合いいただけると幸いです😍 (2月22日 12時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
メイベル - コメント失礼します!!大人っぽい雰囲気最高です!!元々好きでしたがもっとスコ兄に沼りました!アーサーの方の小説もとてもキュンキュンして読みました🥰お身体に気をつけて更新頑張ってください! (2月22日 0時) (レス) id: 40a9933e11 (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - ononon245さん» コメントありがとうございます!以前のもの読んでくださったようで嬉しいです、ありがとうございます🥰スコ兄ということで大人っぽさ全開で書いてみています!楽しんでいただけると幸いです🥰 (2月9日 23時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ