14杯 ページ14
*
「A」
隣に座っている彼が、ふと私の名前を呼ぶ。きっと私にしか聞こえていないその声。音楽は鳴り止まない。私の心臓の音がドラムの音よりも大きく聞こえる。彼は5月の桜のような瞳で私をじっと見つめて、ゆっくり口を開いた。
「キスしてもいいか？」
彼は必要以上に私に触れない。時々口説くような言葉を言うけれど、決定的なことは言わない。そんな彼が、テーブルに置かれた私の手に自分の手を重ねてキスの許可を求めるなんて。心臓の音が体の中に大きく響いていて、ここには私と彼しかいないような気さえしてくる。私はその手を払い除けて言った。
「付き合ってもないのに？」
「……ハハ、……ああ、悪い」
私が怪訝そうな、不信感たっぷりな表情で彼を見ていたからか引きつったような笑いをこぼす彼。彼は自分の前に置かれているテキーラサンライズを一気に飲み干した。気まずい空気感の中、彼は私から目を逸らして言った。
「こういう時、なんて言ったら良いのかわかんねえ。日本人は、その、付き合う時に合図をするって聞いたんだ。……キス、は違ったみたいだな」
「……ふふ、そんなことか」
「んだよ、そんなことって。俺にとっちゃ一世一代の告白だったんだぜ」
照れたように、気まずそうにする彼がなんだか可愛くて可笑しくてつい笑ってしまう。私が笑ったのを見て、緊張感が薄まったように彼も笑った。むすっと気に食わなそうに、でも拒否されたわけじゃないことに安堵したように笑う。
「好きです、付き合ってください。……こうやって言うんだよ」
「……日本人って直接相手になにか言うのためらうくせに、こういうことはしっかり言うのかよ」
「あはは、そうだよ」
彼は大袈裟に目を覆って恥ずかしそうに私に顔を見られまいとする。私は手でもてあそんでいたマリブコークを飲む。ココナッツの甘さにコーラの甘さ、はじける炭酸。私には少し甘すぎるけれど、それがどこか癖になる。私はグラスを置いて、彼に言う。
「ねえ、ちゃんと言ってくれないの？」
「……ったく、良い女になりやがって」
初めて話した時は野暮だとかなんだとか言っていたけれど、彼には"粋"を教わった。相変わらず、彼の本名も年齢も何をしているのかも分からないけれど、一緒にお酒を飲む時間を経て彼の人となりはわかったつもりだ。
「なあ、好きだ。俺と、付き合ってくれないか」
「ふふふ、はい、喜んで」
彼にそう言われたら二言返事をすることは決めていたの。
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おず(プロフ) - おしゃち！さん» コメントありがとうございます💕最後までご愛読頂いた上にそのように言っていただけて嬉しい限りです、ありがとうございます！これからも精進して参ります！ (2月25日 11時) (
レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
おしゃち！ - 完結おめでとうございます！出会いによって人生が変わっていくドラマチックなストーリー、毎話ドキドキしながら読ませて頂きました。ラストの回収が見事過ぎて言葉が出ません🥲︎素敵な作品をありがとうございました！！ (2月24日 1時) (レス) id: cebb1c38ee (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - メイベルさん» コメントありがとうございます！一緒にスコ兄の底なし沼にハマりましょう！！アーサーの方も読んでくださりありがとうございます、更新もラストスパート切りましたので頑張ります！お付き合いいただけると幸いです😍 (2月22日 12時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
メイベル - コメント失礼します！！大人っぽい雰囲気最高です！！元々好きでしたがもっとスコ兄に沼りました！アーサーの方の小説もとてもキュンキュンして読みました🥰お身体に気をつけて更新頑張ってください！ (2月22日 0時) (レス) id: 40a9933e11 (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - ononon245さん» コメントありがとうございます！以前のもの読んでくださったようで嬉しいです、ありがとうございます🥰スコ兄ということで大人っぽさ全開で書いてみています！楽しんでいただけると幸いです🥰 (2月9日 23時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
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