12杯 ページ12
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「レディは相当お忙しいみたいだからな、次に俺に割ける時間はいつできるんだ?」
そう言ってカッコつけたくせに、彼の電話が鳴って、それに少し鬱陶しそうな表情で対応して。仕事が入ったと言って慌ただしく出ていった。相変わらず彼はチップ分を差し引いても多すぎるお金をカウンターに置いて。マスターはそのうちの何枚かを私に返して言う。
「タクシー代にでもしなさいな」
「いえ、彼がマスターに渡したものでしょう?」
「相変わらず真面目というか、無粋だね。私が貰ったものをどうしようと彼には関係ないよ。"私はそれくらいの価値がある"ってくらいに微笑んでお礼を言うのがいい女だよ」
「……じゃあ、ありがとう?」
「気をつけて帰るんだよ」
私がバーを出て地下鉄に向かっていると、電話がかかってきた。画面には連絡帳に登録したばかりの彼の名前が浮かび上がる。どきん、と一瞬心臓が傷んで、私は一度深呼吸をして電話に出た。『ハロー?』と、普段よりも少し低くて近くて、でも遠い距離の彼の声。
「いきなり出てっちまって悪いな、タクシーは捕まったか?」
「え? 地下鉄で帰るよ」
「マスターからタクシー代貰っただろ」
「今度あなたに返そうと思って」
「お前、ここ日本だと思ってんのかよ。さっさとタクシー捕まえて帰れよ」
電話の向こうで、彼が誰かに呼ばれた。私と話す時よりも少し乱暴な言い方で返して、『またな、気をつけて』と私に言って電話を切った。急いでるような様子なのにここまで気を使われてしまっては、彼の言葉に素直に従う他なかった。私は電話が切れた後、たまたま通りかかったタクシーを捕まえて乗り込む。
家のそばのコンビニエンスストアまで送って貰って、代金とチップを払う。それでも彼から貰ったタクシー代は余ってしまう。私は家までの大通りを歩いているとタバコ屋や骨董品屋、それからブティックに小さいオフィスが並んでいることに気がついた。
家からは近いはずなのに、コンビニ以外には寄らないからか今まで気が付かなかった。ふと空を見上げると、一番星以外の星は見えない。都会は光が多すぎて星が見えないと聞いた事あるけど本当に見えないんだ、なんてことにも今気がついた。
(私、視野が狭かったのかな)
ぼんやり考えているうちに家に着く。服や髪に染み付いたタバコの匂い。いつもは家にそれを持ち込むのが嫌で、すぐにシャワーを浴びるけど、今日はその匂いすら愛しくてソファにもたれかかったまま夢に落ちてしまった。
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おず(プロフ) - おしゃち!さん» コメントありがとうございます💕最後までご愛読頂いた上にそのように言っていただけて嬉しい限りです、ありがとうございます!これからも精進して参ります! (2月25日 11時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
おしゃち! - 完結おめでとうございます!出会いによって人生が変わっていくドラマチックなストーリー、毎話ドキドキしながら読ませて頂きました。ラストの回収が見事過ぎて言葉が出ません🥲︎素敵な作品をありがとうございました!! (2月24日 1時) (レス) id: cebb1c38ee (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - メイベルさん» コメントありがとうございます!一緒にスコ兄の底なし沼にハマりましょう!!アーサーの方も読んでくださりありがとうございます、更新もラストスパート切りましたので頑張ります!お付き合いいただけると幸いです😍 (2月22日 12時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
メイベル - コメント失礼します!!大人っぽい雰囲気最高です!!元々好きでしたがもっとスコ兄に沼りました!アーサーの方の小説もとてもキュンキュンして読みました🥰お身体に気をつけて更新頑張ってください! (2月22日 0時) (レス) id: 40a9933e11 (このIDを非表示/違反報告)
おず(プロフ) - ononon245さん» コメントありがとうございます!以前のもの読んでくださったようで嬉しいです、ありがとうございます🥰スコ兄ということで大人っぽさ全開で書いてみています!楽しんでいただけると幸いです🥰 (2月9日 23時) (レス) id: 0e6497002e (このIDを非表示/違反報告)
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