九話 ページ9
「何で手加減しなかったの⁉罰として反省文書いて貰いますからね!」
志「だから加減はしたって!骨折れとる奴居らんかったやろ?」
「折らなきゃ良いってもんじゃないです。Aさんが手当しなかったら入学式に参加出来なかった人だって居たんですからね!」
志「そんなの俺知らな……ちょ、何して」
テレポートでどこかに飛ばされてしまった志麻さん。
ゲームでは懲罰房に飛ばされてたけど、今回もそうなのかな。
用紙取りに行かなきゃ、と呟いた校医さんは慌てた様子で保健室を後にする。
『(さっきからゲームと違う展開が起こり続けてる…)』
まず先程の狸ちゃんとの遭遇。
ゲームでも狸ちゃんと会話する事はあれど、直接触れ合う事自体は無かった。
それに、センラさんがここまで傷つく事だって…
包帯で巻かれた身体は痛々しく、規則正しい呼吸だけが私を安心させてくれる。
―――ペチッ
突然俯き気味だった頬にひんやりとした感触が触れた。
慌てて見上げれば、目の前にはペットボトルを持ってニッコリと笑う坂田さん。
魔力が回復し、飲み物を買いに行っていた彼はいつの間にか帰ってきていたらしい。
坂「さっき自動販売機でもう一本当たってん!これ美味しいから飲んでみ」
『あ、ありがとうございます!』
渡された"トマトサイダー"は甘酸っぱく口の中に溶けていき、喉からシュワシュワと爽やかな音を鳴らす。
回復アイテムとして使用していたこれが、まさかこんなに美味しかったなんて…
坂「ぷは〜っ!疲れた時にはやっぱりトマトサイダーやんな!」
『ですね!』
安い上に回復量が多くて戦闘時には欠かせなかったけれど、成程、味に秘密があったのね。
一人でうんうんと納得していると、隣の坂田さんが急に肩を落としたのが分かった。
不思議に思ってそちらに目をやると、坂田さんの横顔が嬉しそうに、どこか安心した様に微笑んでいる。
…心配してくれたのだろうか。
顔に出やすいのがコンプレックスな坂田さんは、人一倍周りに気を遣っていたのを思い出す。
『坂田さん、ありがとうございます。おかげで元気出ました!』
坂「え!?あ、うん!」
気遣ったのバレた⁉、と目を泳がす坂田さんに笑みを溢しながら一言。
『ここの自動販売機、当たっても音楽が鳴るだけなんですよ?』
ありがとうございます、と一本分の小銭を坂田さんの手の上に置き、私は保健室を後にした。
残された坂田さんが頬を赤く染めていた事を知るのはまだ先の話。
97人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時:2022年1月17日 5時