三十一話 ページ31
志「…俺にそっくりな奴がアジトにいた、か」
『信じたくなかったんですけど、本当に志麻さんが居たんですよ。だから油断しない方が良いなと思いまして…』
なるほど、と志麻さんは納得した様に立ち上がり、腕に付けられた拘束を解いてくれた。
目が覚めれば拘束されて嘘が付けなくなる薬を飲まされた挙句、薄暗い部屋で見えた拷問器具によって私は生まれて初めて眠る様に死にたいと思いました。
でも何でこんなすんなり受け入れてくれたんだろうか…?
『でも何でこんなすんなり受け入れてくれたんだろう…?………あ』
志「ふはは、それ結構長く続くから気をつけるんやで。……何で受け入れたのかは何となく心当たりがあるからや」
『心当たりですか?』
志「おん、俺には歳の離れた兄貴がいたんやけど、ずっと前に行方不明になってる。今も見つかってない」
顔に少し影がかかったが、志麻さんの瞳には光がメラメラと宿っている。
『それがどうして心当たりに…?』
志「行方不明になる前に一度だけ兄貴の部屋に忍び込んだ事があるんだが、何やら怪しげな物が沢山あってな」
『あ、怪しげな物…』
志「今思えば、あれ全部違法の薬と武器やった気がするな。大事にならんかったのは家が揉み消したからやろうし」
『家が揉み消した…!?志麻さんの家って一体…?』
そう言うと、志麻さんは心底驚いた様に目をぱちくりとさせる。
志「あれ、知らんかったん?俺、浦田家に仕える分家の末裔やで」
『え!?あぁ…そうだった。何で忘れてたんだろう?知ってた筈なんだけどな…』
志「まぁ忘れる事もあるし、覚えてないのも大事やで」
『あはは…ありがとうございます…』
志麻の家系の事よりも自分の記憶力の方が気になるらしく、少しだけ目を逸らしたAは苦笑いを浮かべながら髪の毛をいじる。
志麻はその様子を横目に、ふと朧気に映る家族の事を思い出す。
「誰よりも強くなるのよ、その為にその名を与えたのだから」
"月崎志麻"
「誇らしい名を持ったな!父として嬉しく思うぞ!」
"悪魔より強いとされる太古の英雄"
「これなら本家にいる"悪魔の愛し子"も倒せるかもしれないわねぇ」
"あの堕天使ルシファーに打ち勝った最後の剣豪"
「いいかい、志麻」
ーー私達一族の悲願を叶えておくれーー
志「…………」
志麻は、今でも鮮明に覚えている自身の頭に顔を歪めつつ、その記憶を忘れる様に美しい夕暮れを眺めた。
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作成日時:2022年1月17日 5時