二十五話 ページ25
騒ぎがようやく落ち着いてきたので、廊下から身を乗り出し、恐る恐る辺りを確認する。
『(結構ロマンチックなところ…お城みたい)』
光に包まれていた場所は赤い絨毯が敷かれており、レンガ調の壁にはゆらゆらと灯る松明が設置されていた。
クッ〇城みたいな風景に、思わずゲームか、とツッコミを入れたくなった所で、私はとある事に気がついてしまう。
『(そういえばこの世界ってゲームだった。まさに悪役が住むお城って感じのこの場所……もしやカバツ団のアジトなのでは…?)』
そう考えると途轍もない不安が襲ってくると同時に、どうして、という後悔で心が満たされていく。
あほか?アホなのか?私。
記憶が無いとはいえ、あの状況でマートルに攫われませんでした、なんて事ある訳無いじゃない…!
『(…とにかく、一刻も早く此処から出ないと…!)』
そう思いながら絨毯に踏み入れようとした時、目の前を何かがとんでもない勢いで通り過ぎていった。
一瞬見えた色合いにどこか見覚えがあり、嫌な予感がしつつも慎重にその正体を確認する。
謎の物体は少し離れた位置で立ち止まり、スンスンと辺りの匂いを嗅ぎ始めた。
『(何で今現れる…!?マーシャル・マートル、あっちいけって!)』
後ろ姿だけでも只者ではないオーラを醸し出すマートルを前に、冷や汗が流れ始める。
此方に気付いていないのが幸いだ、と肩の力を抜いた直後、突然止まった奴の動き。
?「匂う、匂うンゴね!美味しそうな小娘の匂いが漂ってくるンゴね!!」
『(美味しそう…?食べられるの?私)』
少なくとも常人では届かないであろう距離で此方の匂いを感知したマートルは、まるで此方の居場所が分かっているかの様にじわじわと近づいてくる。
冷や汗を流しながら何処か別のルートは無いかと辺りを見回すと、少し上の方に通気口らしき物があるのを見つけた。
よく見る扇風機らしき物が中には無く、文字通り空気の通り道というだけらしい。
迫りくる鼻息から逃れる為に、私は必死の思いで通気口に潜り込んだ。
でもこの位置がバレるのも時間の問題。
なけなしの勇気を振り絞り、私は狭く薄暗い通路を懸命に張っていく事にした。
97人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時:2022年1月17日 5時