検索窓
今日:3 hit、昨日:7 hit、合計:5,001 hit

ページ30











 「なあ、夢なんだろ?」





 伸びてきていた彼の、手が止まる。







 「これは夢。そうだろ?




 春の一夜の、夢幻(ゆめまぼろし)。」






 本当なら、欲望に身を任せるのなら、今すぐ飛び込んでいってしまいたい。





 彼のあの薔薇の香を胸一杯に吸い込みたい。





 今は白くなってしまっている、私と同じくらいの長さの髪に手を差し入れて梳きたい。








 指を、唇を重ねたい。





 狂おしいほどの衝動を力ずくで抑え込み、もう一度声を発した。







 「20年、だよな。





 遙香がいない寂しさと、月日の懐かしさが魅せた夢だよ。」





 なあ?





 ……またお前を失うなんて、辛すぎる。





 切望する声音に、遙一は、手を何処にも触れさせずに引いた。





 目を、閉じる。






 夢から醒めよう。





 これ以上私が私でいられなくなる前に。













 「────────愛してるよ、遙一。





 永遠に」











 何かが、体をヴェールのように取り巻いた後、唇に柔らかく触れた。






 瞼を上げると、ただ春風が吹き抜けて。





 窓に近づくとその外には、











 清麗な春の夜風が桜を散らす、とてつもなく美しい光景があった。






 散る花びらのどの一片も月光で余さず照らし出されて、息が止まってしまう程に。






 無意識に口ずさんだ歌。








 「…………“願わくば”」











 花の下にて春死なむ

その如月の望月のころ






 






 百人一首の中の誰かが、それとはまた別に詠んだ唄だった気がする。





 こんな美しい景色を最期に見られるなら、本望かもしれない。






 何とはなしに下を見ると、白い花が2輪落ちていた。





 何処からか飛んできたんだろうな、と深く考えずに拾って、窓を閉ざした。














.

ぎ→←る



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (3 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
7人がお気に入り
設定タグ:金田一少年の事件簿 , 高遠遙一 , スピンオフ   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:camellia | 作成日時:2021年3月10日 9時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。