こはるがとお あまり ひとつ ページ21
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父親にあたる男が犯罪者だったとしても、何れその血が目覚めてしまうことがあったとしても、
母さんが愛してくれれば、肯定してくれれば、きっと私は留まれる。
そう、絶対的な自信と確信が、生まれたから。
やっと止まった水に、軽く目を擦って洟を勢いよくかんだ。
手紙を畳んで、封筒に、ファイルに戻す。
───────母さんのおかげで、受け止めることはすんなり出来た。
………………決めた、明日にすること。
初めて触れた時とは雲泥の差の、晴れ晴れと穏やかな心地でファイルに手を置いて、そうしようと心に決める。
それを母さんの机に戻してきてから、部屋に戻ってからベッドに倒れた。
少しだけ目を瞑って、静かに現実を噛みしめる。
…………うん、さっきの決意で、大丈夫だ。
私は、それで後悔しない。
あ、そだこれ読も。
確か返却期限が近かった図書館の本を取り出す。
うちの市の図書館は多種多様なジャンルがあるし作家さん一人に対しても蔵書が行き届いているから、母さんが居るってのとはまた違う理由で頻繁に通ってる。
─────────奇しくもそれは、シングルマザーとその娘の人生を色んな関係の人物の視点から描いた話だった。
ちょいちょいこれ中学生に読まして大丈夫か?て表現もあったけど。
「タカラバコ…………」
繰り返し出てきたその言葉を転がして、ふと思い当たった机の上の、私にとってのそれ。
昔ばあちゃんから貰ったどこかの有名店のガトーショコラが入ってた、リボンが蓋に綴じ込まれてる小さな円柱の箱。
何を入れただろうか。
将来、ふとそれを開けた私の支えになる何かは、入っているだろうか。
突発的に思い立って、お気に入りの便箋を取り出した。
それと、入学祝に母さんがくれた綺麗な装飾の極細ボールペン。
これ程心を揺るがす出来事がこれから起こるかとか分かんないけど。
もしもそんな事があった時のために、今のこの気持ちを、決意を余さず残しておこう。
溜まってたインクをティッシュで拭い取って、ペン先を置いた。
『未来の、私へ』
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作者名:camellia | 作成日時:2021年3月10日 9時