はるがひとつ ページ3
─
『───────佐賀美 遙香。』
「はい!」
厳かに講堂の空気を揺らす、マイクを通した友美先生の声に、何度も練習した返事を発した。
壇上まで背筋を張り詰めさせて歩き、卒業証書を受け取る。
「卒業証書、佐賀美遙香。おめでとう。」
静かに笑んだまま礼をして、降壇した。
席に戻って一度、気づかれぬよう息を吐き出す。
はい第一関門突破。
…………次だよ次。緊張ヤバい。
密かに癖毛にくるくると指を絡ませて落ち着かせる。
『卒業生代表、佐賀美遙香。』
ほら来た。
「……、はい!」
一拍置いて返事をする。
中程の席から立って、女子の前を通った。
最前列の中にいる親友、
『が・ん・ば』
生徒の中では一風変わった髪色の彼女。
サンキュ、と小さく心の中で唱えて登壇した。
『……答辞』
吐く息がマイクに当たらないようにすること。
真っ直ぐ前を見ること。
二つ目は、殆ど覚えてるから良いや。
『桜が春爛漫に咲く今日─────』
礼服のあちらこちらから時折すすり泣きが聞こえる。
『私達は、この秀央高校を卒業します。』
去年も、一昨年も、先一昨年も語られてきたような言葉を紡ぐ。
でも、しょうがないと思うんだ。
人から等しく認められる『青春』を終えた時に抱く感情に、そんなに差が有るとは思えない。
ただ、私の場合はちっと特殊なんだよな。
『進路について迷ったとき、母の言葉を思い出しました。』
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作者名:camellia | 作成日時:2021年3月10日 9時