こはるがとお ページ20
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『その人達にも隠し通してきて、親友と言える人にも言ってないし、母さん……お前にとってはおばあちゃんにも、この事は話していない。
けれど、遙香には自分のルーツを知る権利がある。
だから今、遺しておこうと思い立って、これを書いています。
結構な数の身近な人間が、意外と呆気なくこの世から去ってしまった私にとっては決して過ぎた話じゃないから。』
横線が、微かに震えてるように見えた。
『このファイルを見て、手紙を読んで、真実を知った遙香がどんな選択をしても、受け入れる覚悟は出来てます。
全部に絶望して社会から繋がりを絶っても、幼心に不安に思って聞いたお前に嘘物語を話した私を憎んでくれても良い。
けれど絶対に、
行く末を悲観して自ら命を絶ったりなんかはしないでほしい。
遙香が一生引き籠ってたって暮らしていける蓄えはあるし、万が一社会的に認められない状態になったとしても、見放したりなんかしない。
遙香が生きて、それを生身で見守っていられるだけで、私は幸せだ。
照れくさいから書くのは一度だけにしとくけど、ずっと想ってるから。
遙香、私の娘に産まれてきてくれてありがとう。
彼と出逢えて、遙香をこの身に宿して、一緒に生きていけて。
これ以上ないくらい、私は幸せです。
愛してる。
』
一度だけ紡がれた、インクの文字が母さんの声に置き換わって、何度も頭の中を響き渡った。
いや、もうこれさ。
母さん私のこと大好きすぎじゃん。
うん、私もだけどさ？
断片的に言葉が頭に浮かんだけど、視界と一緒に全部崩れた。
全部、溢れた。
不安も恐れも、ちょっとだけあった罪悪感的なのも、引っ掛かっていた何もかもが涙に流れていった。
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作者名：camellia | 作成日時：2021年3月10日 9時
