こはるがここのつ ページ19
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綴じられていたのは、殆ど新聞記事だった。
一番古い日付は20年近く前。
北海道で起きたとある事件について。
端から文章を順に辿っていって、一つの名を目にした瞬間。
“高遠遙一”
直感と云う言葉すらもまどろっこしく思えるほどに。
身体の全細胞が、この人だ、と肯定した。
私の名前。
小学校高学年になって漸く書けるようになって、もっと可愛い字面もあったのにな、と密かに抱えていた疑問が、
殴られるような衝撃を帯びて剥ぎ奪られた。
「、…………! ハ、アッ…………!」
知らない間に呼吸を止めていた。
滲む汗を、抑えられないと分かっていながらも心の中で檄を飛ばして次を捲る。
全部の記事が、何かしらの事件で、
全部の記事に、その名前があった。
別段、ショックというものは感じてなかった気がする。
ただただ、ああそうなんだ、そうだったんだ。と無遠慮になだれ込んでくる真実を脳に読み込ませていた。
最後。
記事じゃなくて、茶封筒が挟まれていた。
『遙香へ』
全くの躊躇いなく、取り出して封を切った。
私に伝えるためのこのファイルで、私の名が書かれているんだ。
今読まなくて何時読むと言うのか。
腰かけて、三つ折りの立ての便箋を開いた。
『遙香へ
今、お前がお腹にいる時にこの手紙を書いています。
私が手渡したのか、自力で見つけたのか、今の時点では分かりっこないけど、これを読んでるってことは、自分の出生について全てを知った後のことになってると思う。
驚いた、どころの話じゃないだろうな。
弁解になってしまうけど、私も最初は彼の正体を知らなかったんだ。
知った時には、凄く悩んだ。
明智さんにはもちろん、はじめ……金田一のオジサンとか呼んでるのかな、アイツも実はその彼と因縁があったんだ』
金田一のオジサンも……!?
驚きと同時に、母さんの呼び名に関する予想が見事的中しててちょっと笑ってしまった。
ちなみに美雪お姉さんは美雪お姉さんだ。
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作者名:camellia | 作成日時:2021年3月10日 9時