【薄桜鬼】名無しの少女の本業は暗殺者です！弐＝２４＝

15周年記念番外編　徒花の戯れ言　11 ページ11

戦が始まればあっという間だった。


ただ我武者羅に目の前の敵を殺す。


味方の被害を減らすために、囮も特攻も陽動もする。


どうすればあいつらに襲い掛かる運命とやらを僕の方へ捻じ曲げられるか。


そこに集中していれば、口から出るのが血だろうが花だろうがどうでもよくなった。


でも。


僕には、力が足りなかった。


あの瞬間に、僕の判断が謝っていたのかどうか、そんなことはわからない。


でも、目の前にあるのは、あれだけ大口をたたきながら
優しそうなおじさんに重傷を負わせたという事実だけ。


そしてそれは、僕が決めた自分の存在意義の否定で。


一度思考がほころびだせば、閉じていたはずの感情が濁流のように飲み込んでいく。


今回、彼の命は奪われなかった。


でも、命を失うことだけが死ではない。


彼はもう、剣の道で生きることはできない。


剣客としての井上源三郎はここで死んだ。


僕が死なせてしまった。


僕が殺してしまった。


僕の考えが甘かったんだ。


でも、果たして僕は本当に彼に怪我を負わせたことを後悔しているのだろうか。


それよりも、ただ、自分のエゴを守れなかったことに傷ついているだけではないだろうか。


ダメだ、思考が悪い方向にしか転がっていかない。


そうだ。


今ここにいない彼は、今どうしているだろう。


僕が歪めた歴史の中で、彼が生き延びる保証なんてどこにもない。


あゝ、僕はつくづく考えが甘い。


もしかしたら今、大怪我を負っていても、まして命を落としていたって何らおかしくない。


浮かんだ幻想を振り払うように刃を振り回す。


こんなことなら、いや、それはあの時にはできなかった決断だ。


どれだけ切り裂いても嫌な幻覚が僕の前に現れる。


ポトリと、こんな時にも零れ落ちる枯れた望みが嘲け笑う。


貴女「うる、さい、なぁ！」

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