「君は悪くない」

5.誕生日 ページ6

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「A、こっちこっち」

「シアン兄さん、こんな時間にわざわざありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げると、優しく撫でられる。いいよ〜、と笑うシアン兄さんの顔は深めのバケットハットと眼鏡、マスクでよく見えないけれど、いつも通り穏やかなのが分かる。
 
 
「直接会うのは久しぶりだね」

「はい。前回がヨンジュの一周忌だったから……。いち、に、さん……七ヶ月も前ですね」

「わ〜、そんな前か。時間が経つのも早いね」


 ヨンジュの一周忌。自分で言ったことにちくりと胸が痛みながら、シアン兄さんに頷く。
 
 今は6月21日の夜。もう日付も変わりそうだからか、金浦空港も人気もそこまで多くない。
 金浦空港。そう、私はいま韓国に訪れていた。明日……というかあとちょっとで6月22日——ヨンジュの誕生日だから、その日をシアン兄さんとミンジュン兄さんと祝うために。私は今は日本で暮らしているけれど、ヨンジュの命日の日や誕生日には必ず韓国を訪れていた。



「シアン兄さん、最近仕事忙しそうですけど大丈夫ですか？」

 俳優イル・シアンと言えば、今やドラマや映画で引っ張りだこの人気俳優だ。今年春に助演を務めた映画は大鐘賞、いわゆる韓国のアカデミー賞にノミネートされるだろうと早くも言われている。


「ん？ 大丈夫。今日のために詰め込んできたみたいなものだし」

「逆に心配なんですけど……」

「はは。大丈夫だって。元気元気」


 そんな話をしながら空港を出て、シアン兄さんが運転する車の助手席に座る。


「ミンジュン兄さんは今日仕事ですか？」

「そう。MV撮影が延びてるみたい。終わったらそのまま行くって」

「はー……ミンジュン兄さんも大変そうですね……」


 ミンジュン兄さんも今はソロアーティストとして活躍していて、前回出したアルバムでは多くのチャートで1位を取っていた。


「まあ、仕事が全くないくらいなら忙しい方がいいよ。そういう意味では俺もミンジュンも恵まれたね。……あ。日付変わった。ヨンジュが生きてたら22歳……日本では21歳だっけ」

「そうですね、日本は数え年じゃないから……」


(生きてたら、か……)

 配信でファンと誕生日を祝って、そのあと四人だけで過ごして——。そんな誕生日が、ヨンジュが死ぬまでは当たり前に続くと思っていた。それなのに去年も今年も、主役はもう居なくて。
 私の涙はあの時に枯れてしまったけれど、ちょっとだけ泣きたい気分になった。





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