「君は悪くない」

31.誠実 ページ32

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「あの時はいきなり降板してしまって申し訳ありませんでした。ソクフン先生にはかなりのご迷惑を……」

 そう言って頭を下げる。
 あの時。私は色んなものを置いていったまま日本に帰ってしまったのだと、今更実感した。ソクフン先生と一緒に出ていた番組以外にも、ヨンジュとやっていた音楽番組のMCも降板することになったんだったな……とふと思い出して寂しくなる。


「いや、仕方ないことだったから。気にしてないよ。原因が原因だったから心配だったけれど。だから、こうやってまた顔を合わせられたのは個人的にとても嬉しい」

 優しい言葉に、「ありがとうございます」とまた頭を下げた。



「話は変わるけど……N͜͡umberの元メインボーカルのナナさん、N͜͡umberが解散してもう二年近くだよね。H9エンターテインメントを退所して日本に帰ったんじゃないかって言われてはいたけれど……今まで何を？」

「一応事務所に籍はあったんですが……皆さんが考えている通り、解散後は日本に帰りました。ネット上で曲を作ったりはしてたんですが……それ以外は普通の人として暮らしてました」


 ソクフン先生の質問に答えると、LIP J先生が驚いた顔をした。


「本当？ そのビジュアルで一般人として暮らしてたの？ あんなに人気だったのに、ファンに見つかったりしなかったの？」

「意外と分からないですよ」

「はあ〜……世の中不思議だわ」


 LIP J先生の言葉には同意するしかない。私が女だったことがバレなかったのもそうだが、集団の中で当たり前のように過ごしていたら疑う気すら起きないのかもしれない。



「それで……ずっと一般人として過ごしていたのに、どうしてこの番組に？」

 ソクフン先生の質問はもっともだろう。みんなが私の答えに注目をする。私は小さく深呼吸した。


「シアン兄さんやミンジュン兄さん……N͜͡umberの元メンバーはそれぞれ前に進んで成功しているのに、自分だけが何もしてませんでした。それでいいって思ってました。でも、その……二年が経ったじゃないですか。きっかけは色んな人に誘われたからなんですが、二年という節目でこの番組に出会ったのは何か意味があるんじゃないかって……」

 事前個人審査のときは「きっかけが欲しい」とだけ言ったけれど、今はなるべく自分の現状を伝えた方が良いと思った。言えないことばかりある自分に「誠実」なんて言葉は到底似合わないけれど、それでも、今は誠実でありたかった。





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