「君は悪くない」

16.遭遇 ページ17

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　事前の個別審査が終わり、安堵の息を漏らす。

　出来は悪く無かった。あの後にミンジュン兄さんが勧めてくれた、というか完全好みでTWICE先輩の「CRY FOR ME」を披露したのだけどうまく歌えたと思う。
　今回はこちらが用意した歌を披露できたから良かったけれど、次はそうもいかないからそこは少し不安だ。出来ればダンスが激しい曲は辞めてください……と心の中で願っておく。もう二年も踊っていない体には酷すぎる。



(……やっぱり、みんな私がこの番組に出たら「なんで？」って思うのかな)

　——再結成は考えていなかったんですか？
　あの質問がまた頭を過ぎり、重たい気分になってしまう。


(……ヨンジュのとこ、行こうかな)

　なんとなく思いつく。


(あっ。納骨堂の場所、公開したんだった)

　スマホを取り出し、位置情報アプリを立ち上げたところで思い出す。ヨンジュの三回忌が終わり、ちょうど昨日事務所を通して公開したところだった。日が経っていない上、今日はN͜͡umberの結成日だ。私がファンなら絶対行く。



(外から様子を見るだけ……中には入らない……)

　ファンと遭遇してしまったら困るという気持ちと、どのくらいの人がヨンジュに会いに行っているのかが気になる気持ち——その二つを天秤にかけたら後者が優ってしまったため、結局行くことに決めた。






(わ。並んでる……！)

　納骨堂近くまで来ると、ファンらしき人達が並んでいるのがわかった。納骨堂に人って並ぶって異様な光景だな……と思いつつも、ヨンジュのためにわざわざ足を運んでくれた人がいるのは素直に嬉しい。

(中には入れそうにないし、今日は帰ろうかな)

　しばらく行列を見て、満足したので来た道を戻ろうとする。

　
「う、わっ……！？」

　しかし振り返った瞬間に何かにぶつかり、その衝撃で掛けていた眼鏡が地面に落ちる。瞬間、バキッとガラスを踏んだ音。嫌な予感がしながら地面を見ると、私の眼鏡が無惨にも目の前の男の人によって踏み潰されていた。


「えっ、あ゛っ！？ す、すみません！ 俺、前見てなくて……！ これ弁償します！」

「だっ、大丈夫です！！ 自分こそすみません、いきなり振り返って！ ほんと気にしないでください！」

「ええっ、あの……！？」


　困惑する男の人と破壊された眼鏡を置いて、全力で走り去る。





(そういえばあの人、随分顔が整ってたな……爽やかで……)

　拾ったタクシーの中で、ふとそう思った。





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