其れは誰かの為に振るうもの-Ⅲ- (ページ19)

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拾玖－死なせたくない人ページ19

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「お前が俺に喰らわせた素晴らしい斬撃も、既に完治してしまった。だが、お前はどうだ。潰れた左目、砕けた肋骨、傷ついた内臓。もう取り返しがつかない。どう足掻いても、人間では鬼に勝てない。」

悔しくて、悔しくて、仕方がない。まだ、まだ負けてない。けれど、助けに入れない己の無力さにAは歯ぎしりをした。鬼であるのに治りの遅いこの傷と、慣れない呼吸、白の呼吸を使った事。疲労。ギリギリと左手の掌に爪が刺さる。皮膚が裂けて、血が流れる。痛くなどない。治るこの傷など。けれど、煉獄は。

ゴオッと音がした。炎のような。

「俺は俺の責務を全うする！！ここにいる者は誰も死なせない！！」

炎の呼吸奥義＿＿＿＿＿＿

「素晴らしい闘気だ…それ程の傷を負いながら、その気迫、その精神力、一部の隙もない構え…やはりお前は鬼になれ杏寿郎！！俺と永遠に戦い続けよう！」

術式展開＿＿

同時だった。煉獄の奥義、玖ノ型煉獄と破壊札・滅式が繰り出されたのは。土煙でその姿は見えなくて、どちらがどうなったかが分からない。冷や汗が止まらない。鳥肌が立っている。心臓は息が止まってしまいそうな程早鐘を打っていた。

土煙を運ぶ風は穏やかで、未だ二人の姿は現れない。どうかどうか無事でと祈るも束の間、彼等の姿を視界に映した。

息が詰まった。嫌だ嫌だと、受け入れたくなかった。想像もしたくなかった光景があった。猗窩座の右腕が、煉獄の鳩尾を貫いている。

「死ぬ…！死んでしまうぞ杏寿郎！！鬼になれ！！鬼になると言え！お前は選ばれし強き者なのだ！！」

血を流し戦っている煉獄に対し、自分はどうだ。動けず、助けに入ることもできないまま、猗窩座を逃がしてしまうのか。何故、…！！！

ギシッと柄を強く握る音がした。煉獄は猗窩座の頸に刃を振るった。逃がさない。痛みはある。それでも、目の前にいるこの鬼を逃がさない。退かない。己の全てをそれに懸けた。猗窩座が振るった左腕をも止めて。日が昇り始めた。猗窩座に焦燥が濃く現れた。

(逃がさない。絶対に放さない。お前の頸を斬り落とすまでは！！！)

「退けえええ！！」

「あああああ！！！」

Aが刀を取り、立ち上がる。炭治郎もまた黒刀を握り、動き出した。

死なせたくない人がいた。死なせたくない人がいる。守りたかった。守りたい。だから刀を握った。それを振るうのは、いつだって＿＿。