拾弐−もし、もしかしたら、なんて。 ページ12
＊
「っ！」
Aが炭治郎に手を伸ばす。炭治郎は、薄く笑っていた。車掌はきっと伊之助が何とかする。けれど、けれど！！Aは案外遠くへ放り出された。森の中を、空中で体勢を整えつつ、着地する。
ぐわん、頭が揺れる。疲労だ。精神的な疲労が、今回の戦いでは多かった。眠ってしまいたくなる。けれど、けれど。抵抗は虚しく、目が、閉じた。
＊＊
＿＿もし、あの時幸せな夢の中に、ずっと居られたなら。Aはそう思った。鬼という存在は知っていた。けれど、竈門家の家族の優しさに、暖かさにずっと包まれていたかった。いつか、恩返しをしたかった。
もしあの夢の中にいられたなら、ずっと、ずっと居ることが出来たなら。恩返しができたかもしれない。幸せだと、笑って暮らすことが出来たのかもしれない。もしかしたら、炭治郎に想いを告げることが出来たかもしれない。そう考えずにはいられなかった。
“もし” “もしかしたら”
そんな事、もう叶うわけがないのに。考えたって、無駄だというのに。辛かった。辛くて、苦しくて、痛くて。惨めだった。泣き叫びたかった。守れなかった己の無力さに、非力さに絶望した。けれど、それも許されなかった。A自身が許さなかった。
炭治郎に、想いを告げることも、やめた。
彼には、炭治郎と禰豆子には幸せになって欲しい。例え、そこに己が居なくとも。共に生きることも、許せなかったのだ。鬼舞辻無惨を倒し、鬼の居ぬ平和な世界で、二人には暮らして欲しいと思っていた。義幸も、田中も、仁�遒癲�薫も、出会った人全て。鬼殺隊の皆全て、幸せになってほしいと思っている。
Aは、自分自身の幸せを考えてなどいない。
拾参−継承していくもの→←拾壱−それは私の家族への侮辱と捉える
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作者名：僕達はエンジェル | 作成日時：2021年9月25日 14時
