Myself【オリジナルRPGシナリオ小説版】

閑話　航空タクシー ページ40

「遅いよ。凄く暇だったんだけど。」

　宿に帰るや否や、部屋の奥から不満げな少年の声がした。が、玄関に来てびしょ濡れのステラとアナザーを見ると

「は、え？なんで、2人ともそんなびしょ濡れな訳？転んだ？」

　と言いながらタオルを2枚持って来てくれた。アナザーはスカーフとマントを脱ぎ、ステラはブルブルと身体を震わせて水を飛ばす。

「ありがとう。まぁ、トラブルがあってね。」

　身体や毛を拭き取るとステラが水塊を形成し、そのままタオルやアナザーの服を中に突っ込んで渦を作り、洗濯を始める。

〈…便利な能力だよな。〉

「…僕だって、できるよ。」

　どこでも洗濯機、と茶化す「アナザー」に何故か張り合う相棒。以前採取したイトマキ草を5枚ほど取り出すと瞬時に繊維へ、糸へと変化させる。続けざまにさりげなく持っていた棒切れを取り出すと先端を尖らせ、針のように加工すると傘の損傷部を縫い始める。

　以前は出来なかった、能力による小さく細かいものへの加工。それを苦もなくサラリと行う相棒を不思議に思いつつ質問する。

「なんか、少しやってみたらできたんだ。」

〈…理由はわからねぇのな。〉

「そっちこそ、時間に干渉できるようになってるじゃんか。その代わりだよ。」

　あっという間にほつれを直すとようやく部屋に上がる。水塊は未だにごうんごうんと回転している。

「遅くなった理由、びしょ濡れの理由。全部白状してよ。でないと寝かさないから。」

　グラスは2人の前に仁王立ちすると、そう言ってこちらを見つめる。

「えっとね、長くなるよ。途中まではステラと話しながら移動してたんだけど…」

　能力については伏せつつ、大筋を話すアナザー。所々補足するステラ。グラスは話を聴きながら、どこから取り出したのか、メモに何かを書き込んでいく。所々楽しそうに、場面によっては首を傾げながら。後に聞くと、「参考になるからね」との事。

　話についていくらか質疑応答を行い、結局床についたのは夜も遅い頃だった。

　窓から、眩しい光が射し込む。目が覚めたアナザーは布団を畳むと窓の外を見る。
　昨日の大雨が嘘だったかのような青空だった。雲ひとつなく、清らかな青だった。

〈これならタクシーも来るだろう。今日はいい日になるといいな。〉

　うん。そう簡単に返事をすると同時に、ドアが叩かれた。運ばれた朝食を受け取って台に乗せる。静かに眠る2人を起こすと、朝食を口にした。

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