No.59/搔き集める勇気。 ページ10
.
昔と変わらない、お願いしては生意気な命令染みた言い方。
それが嬉しくて堪らない。堪え切れず溢れて、視界が虹色に輝いた。
凛「なっ、何で泣、」
そこで漸くAは泣いている事に気がつく。頰を伝う生温い感触があった。
さしもの凛も狼狽えた。24時間365日無休の苛立った顔が崩れる。綺麗な長い指で、Aの目元からおずおずと涙を掬う凛は新鮮だった。
睫毛に引っ掛かっていた雫がはらりと落ちては溢れる。良いものと悪いものがごちゃごちゃに混ざって、自然と押し出されたみたいな、涙。
きっと絶対、それは悪いものではない。
『あれ、止まんない…待って見ないで凛…』
凛「おい馬鹿…擦んじゃねぇよ」
忘れる勿れ、ここは大食堂。しかも夕食時。
傍観に徹していた周囲が只ならぬ様子に騒々しくなる。
千切「おいクソガキ…テメェなにAを泣かせてんだよ」
凪「なにやってんの、馬鹿なの、ねぇ。何でA泣いてんの?」
潔「凛、お前…暴君にも程があんだろ」
蜂楽「凛ちゃん調子乗り過ぎなんだよ」
視線に殺傷能力があったとすれば、凛はおそらく瀕死の重傷に違いない。凄む四人を筆頭に後ろから鋭い視線を飛ばされているのだから。
もっとも、凛は気にもせず。だるそうに言い放った。
凛「黙ってろ部外者……関係無い奴はすっこんでろ」
「「「ああ!?」」」
今晩の食堂はだいぶ賑やかだった。
帝襟「あれ、Aちゃん。お疲れ様」
『……お疲れ様です、帝襟さん』
明るく笑う帝襟に、Aも笑顔で返す。
そして一つ、決心を固めるように深呼吸をして絵心に向き合った。
『……甚八くん。明日、午後から休みくれないかな』
絵心「急だな。理由は?」
『…お母さんとお父さんに会ってくる』
絵心は瞠目する。Aの真剣な瞳が訴えてくる。
絵心「……どういう心境の変化だ?」
『……いつまでも、親に左右されるのは嫌。それに、いい加減折り合い付けないと』
絵心「…無理はするなよ」
ぽん、と肩に置かれた存外大きな手に、Aは小さく頷いた。
ありったけの勇気を探し出して搔き集めた。
帝襟「Aちゃん、明日は雨だって。傘持って行ってね」
『……ありがとうございます、帝襟さん』
帝襟「ふふ。はい、どういたしまして」
いつもありがとう、と帝襟は優しくAの髪を撫でた。
No.60/呪縛。→←No.58/絡まって、解いて、結び直す。
1149人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えむ(プロフ) - 続き待ってますめちゃくちゃ面白かったです🥲 (8月2日 14時) (レス) id: 7e28d2c99c (このIDを非表示/違反報告)
闇まんじゅう(プロフ) - めちゃめちゃに面白いです!しどー少しは空気読んでwww (2023年3月22日 22時) (レス) id: a2e3403032 (このIDを非表示/違反報告)
藍Na。 - ルアンさん» ありがとうございます!頑張ります。 (2023年3月15日 16時) (レス) id: cd440b7134 (このIDを非表示/違反報告)
ルアン(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです!!! (2023年3月12日 13時) (レス) id: 6a2282d5fc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:藍Na。 | 作成日時:2023年2月6日 16時