.素晴らしきかな、未知!【下津鶴草/栗まんじゅう】 ページ19
__道端のポストに、手紙を投函したのは覚えている。
少々劣化の目立つ塗りの剥げたポストに、祖国の言葉で家族宛に綴った手紙を落とした。
任務の合間を縫っての行動だったので、随分と早足だったと思う。
("好奇心は猫をも殺す"とはよく言ったものだ)
薄暗い路地裏。ヨコハマのマフィアの活動区域。
そこに、見た事の無い花が咲いているのが見えたのだ。
私の初恋は庭に咲いていたクロッカスである。
残念な事にファーストキッスは檸檬の味__なんてロマンチックなものでは無かったが、蜜の甘い香りが口の中いっぱいに広がった時は、なんとも言えぬ良い気分になった。
まぁつまりはそれ程までに、私は植物を、この世の未知を、愛していたのである。
だから任務の事もすっかり忘れて薄暗い路地裏に入っていってしまったのもまた必然であり、仕方の無いことなのだ。
『ふむ……』
ジャリジャリと音をたてながら、小石の散らばる獣道を踏みしめる。
川が割と近いのか、森に広がる沈黙の隙間を縫って水のせせらぎの音がこちらまで届いていた。
はて、私は先程まで路地裏にいたはずだが、一体何故このような辺鄙な森へと飛ばされているのだろうか。
一度頭の中で先程の出来事を整理するが、残念ながらその理由を見つけることは出来ない。
普段はこのような不可解な出来事を追求する事に快感を覚えるのだが、流石にこの状況でそれを感じる事は無かった。まだ自分に真っ当な人間らしさが残っていて良かった、と少し安堵する。
ふと足元を見れば、見た事の無い蜘蛛が地面を這っているのが見える。
パッと見毒を持っているようには見えない、すこぶる地味な色の蜘蛛だ。
先程の安堵も忘れ、刺されてみたいという欲求が内側からふつふつと湧いて出てくる。
ただ、如何せんここは人っ子1人居ない森。更には全く知らない場所ときた。
(こんなところでぶっ倒れてみろ、確実に死ぬな)
__だがしかし、好奇心というのは時に三大欲求を上回る程の熱情を生み出すこともあるというもの。
私が殺されるのはチュパカブラのようなUMAの類か新種の生き物と心に決めているのだ。
こんな見たことも無い蜘蛛に刺されて死ねるのならば本望である。
『ふぅ……よし、イけるな』
「イけない!!!」
そう決心し、最近お気に入りで徐々に端のほつれてきたアームカバーを捲ろうとした時、後ろから不意に声を掛けられた。
クルリと振り返れば、そこにはやけに前髪の長い___
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魑魅 零(プロフ) - 更新しました (3月8日 13時) (レス) id: 9560c26e60 (このIDを非表示/違反報告)
魑魅 零(プロフ) - 更新します (3月8日 13時) (レス) id: 9560c26e60 (このIDを非表示/違反報告)
白井直(プロフ) - 更新しました! (12月23日 9時) (レス) id: 97d9ce38f9 (このIDを非表示/違反報告)
白井直(プロフ) - 更新します! (12月23日 8時) (レス) id: a16c2d859c (このIDを非表示/違反報告)
朝宮藍良@スランプ中(プロフ) - 更新しました・・・! (12月22日 15時) (レス) id: 25ee4b6236 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:迷い犬の鬼殺奇譚参加者一同 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/novel/BNGUKMT/
作成日時:2023年10月24日 17時